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case.3 部活仲間

「長谷川お前まだ中村と付き合ってんの?」

部室で、部活仲間の一人に失礼なことを聞かれた。

「まだって何だよ!夏休み前に付き合い始めたばっかなのに別れるわけねえだろ!?」

付き合うまで、あれだけ湊に「世界が違う」と言われていたのに、付き合ってみたら、そんなのどこにも感じない。

俺だけがそう思ってるのかもしれないけど、とにかく世に言う「順調な交際」ってやつを満喫しているところだというのに。


「てかお前が中村好きだって時点でびっくりだったよな!」

別の奴がそう言う。

「お前めちゃくちゃ積極的だったけどさ、正直なんで中村?って思ったもんな。何度も言うけど」

耳にタコができるほど聞いたフレーズだ。
いつもは「好きなもんは好きなんだからいいだろ」と返すけれど、今日はなんだかムカッとしたので逆に聞いてみた。

「何で俺が湊好きだったらおかしいんだよ?」

すると仲間たちはこう言った。

「いや、たしかにあいつ実はけっこうかわいいけどさ、おとなしいだろ」

「三島とか川崎とかとも仲いいじゃん、お前。川崎なんかたぶんお前のこと好きだったのに、見向きもせずに中村って。なら川崎くれよなっていう!」

三島や川崎は、いわゆる目立つタイプの女子で、男友達もたくさんいる。
湊の言葉を借りれば「キラキラした世界の女の子」なんだろう。

たしかに俺はけっこう騒がしいタイプだから、みんなそう言うのかもしれない。

そんで俺と似たようなバカな奴らが集まる部活も、三島とか川崎みたいなのがいいっていうのばっかりだ。


だけど、俺はよくわからない。
「かわいい」とこまでは同じラインなのに、なんで「おとなしい」がマイナス要因になるのか。俺が好きになったらおかしいような理由になるのか。

おとなしいって、欠点なのか?
個性じゃないんだろうか。

確かに社交的なほうが「絡みやすい」とかそういう長所はあるかもしれないけど。


こいつらだけじゃなくて、クラスの奴らとかみんな、いい奴らなんだけど、その感覚だけは俺にはずっと理解できないでいる。

湊はたぶん、理解できるんだろう。
だから「世界が違う」とつっぱねた。

でもほら、今は俺たち、こんなに楽しく一緒にいるじゃないか。
俺も湊もお互いが好きで(湊が俺をちゃんと好きかは少しだけ自信がないけど)、一緒にいたら楽しい。そこに何のおかしいとこがあるんだろう。


結局、また俺は「いいだろ、好きなんだから」とそっぽを向いて口をとがらせるだけになってしまった。


「おいおい!なんか前より『好き』に愛がこもってねえか!?こいつー!」

また別の奴がそう言って冷やかす。
周りの奴らも「ラブラブだねえ」とかなんとかはやしたて始めた。

なんだ、さっきまであんなこと言ってたくせにこいつら。

「悪いか!俺と湊はラブラブだ!」
やけになって叫ぶ。
湊が聞いてたら殴られるな。

部員たちはますます騒ぐ。

「てかお前いつのまにか『湊』って呼んでんのな!中村には何て呼ばれてんの?」
「大ちゃん、とか?大くん、とか?」


「『長谷川くん』だよ!キモい声出して大ちゃんとか言うな!」

「キモいってよ!お前」
「なんだよ冷たいなあ大ちゃ〜ん!俺にも中村にするみたいに優しくしてよ〜」
「ギャハハハ!」

バカ共に言い返して、俺は急に気付いた。
確かに俺、まだ苗字で呼ばれてんだな。

「湊って呼んでいい?」って聞いた時、「大介って呼んで」とも言っとけばよかった。いまさらタイミングがないぞ。


黙りこんだ俺に気付いて、部員たちがまたからかってくる。

「あー、長谷川お前今エロいこと考えてただろ!?」
「彼女いるからってやらしーな、おい!」
「いいなあ彼女、俺もエロいことしてー!」

俺は慌てて反論する。

「俺はエロいことなんて考えてないし、エロいこともしてねえ!」

むしろ何もする勇気がないくらいだ、とはますますからかわれるからもちろん言わない。


男の集団ってほんと、一人に彼女ができるとかっこうの餌食だよな。
俺もよくからかう側に回るけど。


めんどくさい、と思いながらも、これが湊と付き合ってる証明みたいな気がして、実は少しだけこそばゆい気持ちになってる俺がいた。

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