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ああ、なんで私はこんなところに閉じこもって、働いてるんだろう。
世間は夏休み。
世の中の多くの人は、家族や友達、恋人とのバカンスを楽しんでいるこの季節。
なのに私は、冷房のききすぎているこのオフィスで、書類とにらめっこ。
季節感のかけらもない。
働き始めてから、日本に四季があることを忘れてしまったような気がする。
定期的に発散させるべき何かが、ずっと体に沈澱しているみたいな感じ。
ああ、季節に従順に生きたい。
空調のせいでだるさの抜けない体を引きずるように、過去の資料が納められている倉庫へ向かう。
このヒールの音も疲れを助長しているんじゃないかと思う。
俯いたまま扉を開けると、中からなんだか熱い風が吹いてきた。
顔を上げると、扉のむこうに広がるのは、真っ白な砂浜。
そして、青く澄んだ、海!!!
ああ!
夏が私を迎えに来てくれた!
私は砂浜へ駆け出す。
気付けば裸足にワンピース姿だ。
射すような太陽の光を、遠慮なく全身に浴びせるように両手を広げる。
夏だ!バカンスだ!
私は、海に飛び込むべく、助走をつけて思いきりジャンプした。
――――ゴツン!!!!!!!!
………資料の棚に、思いきり頭をぶつけた。
砂浜も海も、熱い風も、どこにも見当たらない。
ここにあるのは、倉庫のよどんだ空気と、紙のにおいだけだ。
ああ、ついに幻まで見るようになってしまった。
ますます何かが沈澱した気がする。
来年は何があろうと、長い休みをとって南の島へ行こう、と私は決意した。
end
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