小話 | ナノ


▼ 

ああ、なんで私はこんなところに閉じこもって、働いてるんだろう。


世間は夏休み。

世の中の多くの人は、家族や友達、恋人とのバカンスを楽しんでいるこの季節。


なのに私は、冷房のききすぎているこのオフィスで、書類とにらめっこ。

季節感のかけらもない。

働き始めてから、日本に四季があることを忘れてしまったような気がする。



定期的に発散させるべき何かが、ずっと体に沈澱しているみたいな感じ。

ああ、季節に従順に生きたい。



空調のせいでだるさの抜けない体を引きずるように、過去の資料が納められている倉庫へ向かう。

このヒールの音も疲れを助長しているんじゃないかと思う。



俯いたまま扉を開けると、中からなんだか熱い風が吹いてきた。

顔を上げると、扉のむこうに広がるのは、真っ白な砂浜。

そして、青く澄んだ、海!!!


ああ!
夏が私を迎えに来てくれた!


私は砂浜へ駆け出す。

気付けば裸足にワンピース姿だ。

射すような太陽の光を、遠慮なく全身に浴びせるように両手を広げる。


夏だ!バカンスだ!


私は、海に飛び込むべく、助走をつけて思いきりジャンプした。





――――ゴツン!!!!!!!!


………資料の棚に、思いきり頭をぶつけた。


砂浜も海も、熱い風も、どこにも見当たらない。

ここにあるのは、倉庫のよどんだ空気と、紙のにおいだけだ。



ああ、ついに幻まで見るようになってしまった。


ますます何かが沈澱した気がする。



来年は何があろうと、長い休みをとって南の島へ行こう、と私は決意した。



end





prev / next
(1/1)

[ back/top ]




×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -