▼ 月が綺麗ですね(2)
今夜は月がとても綺麗です。
いつか、貴女の隣で見上げた月も、こんな風でした。
あまりに綺麗で、この月を貴女とずっと見ていたくて、かと言って貴女とこれ以上一緒にいられる口実も話題も見つからなくて。
何か言わなくちゃ。そう思って視線を向けた先の、貴女の横顔は、月よりも、もっともっと綺麗で。
月に見惚れている貴女に、僕は、見惚れてしまった。
だから、好きだと言うこともできず、ただ一言だけ呟いて。
それからずっと、黙って月を見ていた。
あの夜のことを、思い出します。
思えば、あれから何度、貴女と夜を過ごして、ともに月を見上げたことでしょう。
今、僕は貴女と離れ、遠い街で暮らしていますね。
同じ月を見上げる夜が、幾つあったでしょうか。
それを確かめることはできません。
それでも、あの夜のまま、僕の心はずっと、貴女だけを見つめています。
貴女だけに見惚れています。
こんな夜だから、その気持ちはますます大きくなって。
僕は本当に、貴女が好きなんだと、強く思います。
そばにいる頃は、あまり口にすることができませんでしたね。
僕は、貴女が好きです。
心から、好きです。
好きで好きで、どうにかなってしまいそうなほどに、貴女が好きです。
――月には人を惑わす力があるなんて言いますが、僕は月に力を借りて、この手紙を綴っています。
貴女は笑うでしょうか、驚くでしょうか、少しだけ不気味に思うのでしょうか。
こんな手紙を寄越した僕を。
それでも、ここに嘘はひとつもない。
大切な貴女に再会できる日が、
ともに月を見上げ、あの夜と同じ言葉を交わせる日が、
一日も早く訪れることを祈って。
遠い場所にいる貴女に、想いを乗せた手紙を送ります。
どうかお元気で。
……いくら真夜中に書いたとは言っても、これは少し、駄目だな。うん。
だったら何を書こう。
嘘のない、とても出せないこの手紙に、代わる言葉。
彼女に想いを伝える、別の言葉。
――こんな夜に、それはただ一言。
けれど、どうだろう。
読んだ彼女は首を傾げるかもしれない。
第一、郵便が届くのは昼間なのだから、ロマンチックさのかけらもない。
それでも結局、僕は長くて恥ずかしい手紙を破り捨て、白い葉書に丁寧な文字で記した。
短すぎる、ラブレターを。
月が綺麗ですね。
end
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