▼ 四年経ったら
ぼくはきみをを守りたい。
楽しいときは一緒に笑いたいし、きみが泣いていたら抱きしめたい。
だけど、これからはそれが全部、できなくなるんだ。
「四年経ったら戻ってくるよ」
きみを自転車の後ろに乗せ、川のそばの畦道を走りながら、確認するように言う。
自分にも、言い聞かせるみたいに。
背中に、頷く気配。
ひと月前に、「父さんの仕事の都合で四年間、東京に行くことになったんだ」と打ち明けたときも、きみは小さく頷いた。
そして、
「東京は、きっと遠いね」――そう言って寂しそうに笑った。
ここから東京へは、朝早く汽車に乗って出発しても、到着するのは夕暮れ時だ。
たしかにぼくたちには、遠い。
四年後に帰ってきたとき、ぼくは今みたいに学生帽に詰め襟姿ではないし、きみも今みたいなセーラー服は着ていない。
四年分のきみを知ることができない。
一緒に笑えないし、抱きしめられないし、守れない。
東京も遠いけれど、『四年』も遠い。
最後の日の帰り道に、何かきみの心を打つような、特別なことばを残したかったのに、情けないくらいに浮かんでこない。
だから、ぼくの気持ちを正直に言うことにした。
「待ってなくて、いいからね。たまに手紙を送るかもしれないけど、返事も書かなくていい。読んでくれればいいよ」
きみは何も答えない。
もしかしたら頷いたかもしれないけれど、わからなかった。
少し黙って、ぼくは続ける。
「本当は、ずっと変わらないでいてくれ、って言いたいけれど……変わらないものなんてこの世界にはないから。だから四年分、変わっていてほしい」
ぼくが見ることのできない四年を、きみの中に閉じ込めて、変わっていてほしい。
それがどんなに、ぼくの不安を煽ることでも。
ぼくが守りたいのは、きみだけだから。
「ぼくも四年後、少しはきみを守れるような男に、変わっていると思うんだ。
そして、今のきみへの気持ちもきっとそのままじゃなくて、四年分降り積もった気持ちを――帰ってきたら全部きみにあげたい」
きみに背中を向けたままだから、言えること。
四年後には、まっすぐ瞳を見つめて言えるだろうか。
きみはただ小さく、「うん」と答えた。
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