▼ 眠れない夜明け
なんとなく目を覚ますと、背中にやわらかい頬の感覚があった。
そして脇腹あたりの服を軽く握っている小さな手。
無邪気なこどものようなその寝顔が見たくて、後ろを振り返りたいと思うけれど、起こしてしまいそうでできない。
背中の感触に頬を緩めながら、服を掴む手に自分の手を重ねた。
普段もわりと無防備だが、寝ていると当然、数段無防備になる。
起きていたら絶対にしないことだが、無意識に自分に甘えてくれていることにたまらなく幸せを感じる。
しかし穏やかな気持ちの後に押し寄せてくるのは、どうしようもない衝動。
手を包み込んでいるだけでは全然足りない。
思いきり抱きしめて、全部を感じたい。そしてこの熱を感じさせたい。
だが、せっかく寝ているのを起こすわけにもいかないし、第一この状況では自分自身が、抱きしめただけでは終われそうにない。
「待ってやる」と約束した。
恥ずかしいだけなら容赦はしない。
もっと恥ずかしくなるくらいに、手をゆるめる気はない。
だが、怖いと思っているものを、無理じいするつもりもない。
日々のふれあいの中で、ここを越えれば怖がるだろう、というラインはわかっている。
その境界がなくなってしまうまで、待つと決めた。それを覆すわけにはいかない。
こんなに可愛いことをしておいて、知らず俺を煽っておいて、こいつはずるい。
もう寝付けないだろうということはわかっていた。
重ねた手を少しだけ強く握って、俺はひとつため息をつく。
「……起きたら覚えてろ」
外は、わずかに明るみ始めていた。
end
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