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「小池くんはさ、私としながら、何考えてるの?あ、もちろん彼女のことだろうけど……小池くん、何も言わないし、冷静だから」
「志穂がわかりやすすぎるだけだよ」
「そりゃあ……黒木さんにこんなことされたらって、思いながらしてるから」
「こんなこととか?」
背後から、小池くんの手がのびる。
「んっ……そ、う、そんなこと、とか……」
いちばんよわいところと胸を同時に弄られて、落ち着いたはずの身体の奥が、また熱くなる。
耳に舌を這わせながら、小池くんは囁いた。
「俺も別に、冷静じゃないよ。志穂が気づかないだけ」
「あっ、小池く、」
「『黒木さん』だろ?」
「んんっ……はっ、あ……」
お湯が跳ねる音さえも、いやらしく聞こえてくる。
小池くんは、執拗に、同じところを触りつづける。頭の芯が、痺れてくる。
「俺が彼女に振られた理由、言ったっけ」
「え、あっ……」
「『他に好きな人がいるんでしょう』だってさ」
「そ、んなこと……ないんでしょ……?」
「さあ」
「ちょっ、あっ……小池くん、」
「黒木さん」
「く、ろ……やっ、あっ……!」
「代わりだよ。身体は、代わり」
長い指が、私の奥に押し込まれる。
びくり、と腰が揺れて、熱い波が襲う。
ぬるくなったお湯が、顔にかかる。
顎を掴まれ、振り向かされる。
やわらかい舌に、口のなかまで犯される。
『身体は、代わり』
黒木さんの名前を呼びながら、初めて、小池くんのことを考えた。
身体は、何の代わり?
こころの、代わり?
まさか、そんなこと、ないでしょう?
ねえ、小池くん。
『すぐに破綻するよ』なんて、知ったようなこと言ってたくせに。
私は、黒木さんの代わりに、小池くんの身体を求めているんだから。
小池くんは、違うなんて、今さら言わないで。
すべてを壊すようなこと、気づかせないで。
「志穂、なんでそんな、いやらしい顔してるの」
「ん、は、あっ……きもちい、から……っ、いつもより、……ああっ!」
「酷い女だね、志穂は」
自分が何を欲しがっているのか、わからなくなったまま――何度も何度も。
波にさらわれるのが、心地よかった。
end
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