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「あっ、秋津くん。それに早瀬も、どうしたの?」
公園のベンチに座る日夏――正確にはその膝の上を見て、秋津と早瀬は顔を見合わせた。
「……垂氷コノヤロウ」
「差別ですね」
目を細めて、彼女の膝でまるくなっている猫を見下ろす。
日夏は、垂氷の背中を撫でていた。
「秋津くん待ってたらちょうど垂氷が通り掛かって『眠い』って言ったから『寝る?』って聞いたら」
「膝に?」
「うん、よくあるよ?」
「そういえば前に日夏さん、垂氷さんの毛並みの話をしてましたもんね」
「一応契約者は俺だぞ?」
至極不服そうな二人に、日夏はきょとんとしている。
「でも早瀬さん、これはチャンスですよ」
秋津の目がギラリと光った。
「……確かに。今日は気が合うな、秋津」
早瀬の目つきも鋭くなる。
早瀬は、唇に人差し指を当て、日夏を見た。
「……?」
「秋津、いくぞ」
「はい、早瀬さん」
小声で囁き合い、そして、
「せーの!」
声を合わせ、銀の毛に勢いよく両手を伸ばした。
が、
「あっ!」
「ああーっ!」
指先が触れるか触れないかの刹那、垂氷の目がぱちりと開き、猫の身体は素早く四本の手から逃れた。
すとんと地面に着地した垂氷は、冷たい目で二人を見上げる。
「大の男が揃いも揃って何を馬鹿なことを。恥ずかしくないのか」
「垂氷のせいだろ!このケチ猫!」
「そうですよ!少しくらい触らせてくれたって」
「くだらない。こんなのが契約者だと思うと嘆かわしいな」
垂氷はひとつため息をつくと踵を返し、花壇の植え込みに姿を消した。
「ねえ二人とも、何してるの?」
日夏の呆れたような視線に、秋津と早瀬は再び顔を見合わせた。
「……早瀬さん、僕のお弁当半分あげますから一緒に食べていきませんか」
「……そうだな、うん、ありがとう、そうするよ」
恋敵であったはずの二人に、奇妙な友情が芽生えた瞬間だった。
end
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