▼ 昼下がり
「猫ちゃん、ですね」
「……猫だな」
彼と私は、昼下がりの木陰にしゃがみ込み、同じものを見ていた。
ここは彼の叔母・ハナエ殿下の宮殿。
ハナエ殿下がユキに会ってみたいとおっしゃったから、今日はユキを連れて来ていた。
昼食を終え、三時にお茶をしましょうねと約束をして、ハナエ殿下が自室に戻られたから、私たちは広い庭を散策しに出掛けた。
昼食の間、一足先に庭に出ていたユキの姿を探し、涼しい木陰にたどり着くと。
「可愛いですね」
「……小さいな」
地面に寝そべって昼寝をしているユキに寄り添うように、猫がまるくなって眠っていた。
そして、ユキの背中には子猫が三匹、これまたまるくなって眠っている。
ユキの隣の猫にはリボンがついているから、以前からこの宮殿によくやってきているというあの猫だろう。どうやら子供を産んだらしい。
「ユキ、気付いてるのかなあ」
「気付かずに食い物の夢でも見ていそうな顔をしてるが」
「ふふっ、起きたらびっくりしちゃいますね」
二人してしばらくその光景を眺めていると、昼下がりの陽気のせいか、私まで瞼が重くなってきた。
「眠いのか」
「……少し」
「寝てていいぞ。三時になったら起こしてやる」
そう言って彼が木の幹を背もたれにして腰を下ろしたから、私も隣に座ろうと立ち上がった。
すると、
軽く開いた足の間の地面を、彼がとんとんと叩く。
「え、と……」
ここに座れ、という意味らしい。
それはすごく恥ずかしい体勢だと思うのだけれど、魅力的な誘いでもあった。
ほんとうは、彼にもっと、近付いていたい。
少しだけ躊躇ってから、彼に背を向けた状態で、その『指定席』に小さくなって座る。
すると、引き寄せられて、彼の胸にもたれかかるようなかっこうになった。
彼の規則正しい心臓の鼓動が、背中越しに伝わってくる。
私の肩に軽く顎を乗せた彼は、片手で私を包み込んで、もう片方の手で私の髪を撫でた。
「確かに眠くなるな」
「え、と、カズマ様が寝てて、いいですよ?私、起きてますから」
どきどきして眠気が飛んでいってしまいそうだから、私は言った。
「いや、寝てろ」
彼が静かに、やわらかい声で答える。
――とても眠れないと思っていたのに、彼の腕の中にいることが心地良くて、私はいつの間にかまどろんでいた。
目を覚ますと、猫たちはいなくなっていて、代わりにユキが私たちに寄り添うように、寝息をたてていた。
end
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