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「マリカ、なぜさっきからそんなところに隠れている」

突然カズマ殿下が振り返ってこちらを見たものだから、私はぎくりと身を縮めた。


「ええと…殿下とリンさまのお邪魔をしてはいけないと思うと、お声を掛けるタイミングを失ってしまって…?」

にこりと微笑みながら、お二人の前に進み出る。

嘘ではない。

ただ、お二人の仲睦まじいご様子をのぞき見してにやけていた、ということは黙っておく。


けれどリンさまが真っ赤な顔でこちらを見ているから、言わなくてもばれているのだろう。


思っていたよりもずぶ濡れのリンさまに、真新しいタオルを差し出す。

「お着替えもすぐにご用意いたしますわね」

「は、はい。ありがとうございます」

リンさまは、タオルに顔を埋めて小さく頷いた。


「とりあえず服を絞れ。それで部屋まで歩いたら床が水ひだしになるぞ」

カズマ殿下は呆れ顔でリンさまに命じる。


さっきまでは『心配させるな』なんて言っていたくせに。
それに本当は呆れてなんかいないくせに。

私はこぼれてしまいそうな笑いを必死で堪えていた。ここで吹き出してしまうのは、さすがに不敬だ。


「はい…」

リンさまは素直にスカートの裾を持ち上げた。

―――と、

「……っくしゅん!」


「…………」

リンさまが小さなくしゃみをして、その瞬間、カズマ殿下がぴしりと固まった。

「………おい、マリカ」

固まったまま、カズマ殿下は私の名前を呼ぶ。

「すぐにこいつを湯殿に入れろ」

「えっ!?大丈夫です、髪だけ乾かせば…」

「1時間は湯から出すな」

「ええっ!カズマ様、おおげさ…!」

うろたえるリンさまを無視して、カズマ殿下は私に命令を重ねる。


「もちろん、湯殿の準備も整っておりますわ」

私は得意顔で答えた。

以前リンさまが池に落ちたときもそうだったから、カズマ殿下がそうおっしゃることは想像がついていたのだ。

過保護だとは思うけれど、ほほえましい。


「助かる。こいつを頼む」

カズマ殿下はそれだけ言って、さっさと立ち去ってしまわれた。

リンさまに『一緒に入るか?』くらいはおっしゃるかと思ったのに。

心配でそれどころではないのかもしれない。また笑いがこみあげる。


「さ、リンさま、参りましょうか」

「……マリカさんにも迷惑かけちゃってごめんなさい」


リンさまは心底すまなそうに私を見た。


「リンさまはだいたいのことをご自分でなさってしまうんですもの。これくらいの迷惑はかけていただかないと、手応えがございませんわ」

私は笑顔でリンさまのお手を取る。

「このままだと私、お二人のイチャイチャを眺めることが仕事になってしまいそうですもの」

冗談めかしてそう言うと、リンさまは真っ赤になって頬をふくらませた。



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