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「『すみません』?」
小さく首を傾げてから、香奈さんはパタパタと俺に走り寄った。
「うおっ!?」
香奈さんが自分から俺の隣に!
う、嬉しいけど……嬉しいけど……今はその、理性が、理性がですね!!!!
そんな風に俺が一人どぎまぎしていると、
「ふふっ、可愛いっ!」
「エッ!!!!????」
さ、さらなる駄目押し!?
―――と思ったら、
香奈さんの視線の先にいたのは、俺ではなく、子犬だった。
「ね、私もだっこしていい?」
…………そ、そんなことだろうと思いましたよ!!!!!!
涙目で香奈さんに子犬を差し出す。
「片手じゃちょっと重いから、傘もらいますよ」
せめて相合い傘。
「ありがと。わっ、ふわふわ!もおお〜可愛いいい〜〜!!!!!!」
香奈さんは子犬をぎゅっと抱きしめて頬ずりをした。
いつも思うのだが、香奈さんはこの半分でも俺に優しくしてくれたって、罰は当たらないんじゃないだろうか。
でもまあ、いっか。
泣きそうだった香奈さんが、笑顔になってくれたから。
俺は、こっそりひとつため息をついてから、小さく笑った。
結局、子犬は1日だけ俺が預かり、翌日先輩の実家にもらわれていった。
香奈さんも、帰ってすぐお風呂に入ったらしく、風邪は引かなかったようだ。よかった。
ちなみに、あの日の帰宅後、香奈さんが抱きしめた犬を思いきり抱きしめて『香奈さんのにおいがするううう』と叫んだことは、香奈さんには秘密だ。
香奈さんが抱きしめたせいで少し湿っていた子犬を見てまた、水も滴る香奈さんの妄想を始めてしまったことも、秘密だ。
end
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