▼ きつねの家庭訪問
ああもう!神様の野郎、何の用かと思えば!
あっちとこっちじゃ時間の流れが違うってわかってないんじゃないか、ほんとに!
……こんな大事な時に、まったく、いい迷惑だ。
数カ月前。
五月と賢太が久しぶりに二人で社にやってきた。
いつもより、賢太が五月のからだを気遣うような雰囲気があったから、もしかしてと思ったら、案の定……
『神様、賢太くんとの赤ちゃんを授かりました。元気な赤ちゃんが生まれてきますように……お願いします!』
『神様、五月ちゃんのお腹に、俺たちの赤ちゃんがいます。どうか五月ちゃんも赤ちゃんも健康で、無事出産を迎えられますように』
だから俺は神様じゃなくて神の使いだって…というつっこみは、さすがにもうしない。
まあ、二人が結婚してしばらく経っていたから、そろそろだと思ってたんだ。
ちょうど俺は、賢太に姿を見せた時に使い果たした力が回復し、明日にでも社から自由に動けるようになるだろう、というところだった。
いいタイミングだったな、と正直……まあ浮かれていなくもなかった。
嬉しくなくも、なかった。
これから五月の様子を見に行ってやっても、まあいい。
――と思っていたんだが、
俺が自由を取り戻したとたん、神様からお呼びがかかった。
人間でいうところの上司からの命令だから当然、俺に断る権利はない。
何の用かとあちらの世界に行ってみれば、ただの雑用を押し付けられただけだった。
この俺に書類整理なんてさせんなよな!と文句を言ったらさらに雑用を増やされた。
三日三晩徹夜で仕事に追われ、やっと終わらせたけれど、こっちの数日は人間の世界では数カ月なのだ。
とっくにガキは生まれていた。
そんなこともあろうかと、尻尾の毛を社に残してきていたから、あいつらの動向は把握していたのだが。
俺の尻尾の毛は、受信器みたいな役割を果たしてくれるのだ。
だからあいつが順調なことはちゃんとわかっていて、安心もしていたけれど、俺自身は何も、あいつらの力になってやれなかった。
というか、あいつらがまだ付き合ってもないころから面倒見てきたこの俺が、最大イベントのひとつ…出産に立ち会えないなんて、おかしいだろ。
雑用を終わらせてから神様の長い長い小言を聞かされ、慌てて人間の世界に戻ると、五月と賢太のガキが生まれてから、既に半年も経っていた。
ガキが生まれてすぐ、賢太が半泣きで社に報告に来ていたが、それからは何かと忙しいらしく、二人とも姿を見せていない。(尻尾の毛によると)
俺は、自由を取り戻したこの体で、さっそく五月と賢太の家に向かった。
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