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▼ 仲直りのための夢十夜

『晃太のばか』


大好きな彼女が、家出をしてしまった。


『晃太は十日後、謝りに来る。私はそれまで絶対、謝らない』


そんな『予言』を残して。



****



きっかけは本当に、些細なことだったと思う。

そこからお互いにどんどん意地を張って、引っ込みがつかなくなってしまった。


大学生である俺、朝霧晃太(あさぎりこうた)は、彼女である鶴岡未来(つるおかみく)と同居中だ。

黒くて長い髪がとても綺麗な彼女――未来は、『未来が見え』て、『神に愛された子』を自称する、いわゆる電波系、というやつだ。

俺のことを『未来の旦那さま』と呼んでいきなり家に押しかけてきた。

詳しい経緯は割愛するけれど、そこからいろいろあって、俺も未来のことを好きになって、今に至る。


そんな未来は、基本的に無表情で無口。

怒っていると、ますますそれが顕著だ。


それでもいつもなら、すぐに仲直りできていただろう。お互い好き同士なわけだし、さっきも言ったとおり、きっかけは些細なことだったのだから。



だけど、今日はタイミングが悪かったとしか言いようがない。


俺たちの間に気まずい沈黙が落ちた瞬間、俺の携帯が着信を知らせた。

気まずさから逃れるためにも、俺は電話を取る。――相手は、友人の吉田だった。


『何だよ晃太、なんか機嫌悪くないか?もしかして彼女と喧嘩中とか?』

しばらく会話した後、吉田が冷やかすようにそう言った。

途端、電話の向こうでガタガタと雑音がしたかと思うと、かわいらしい声が食い気味に響いてきた。

『未来ちゃんに替わって!!!』


吉田の彼女、兼、未来の『初めての友達』友里ちゃんだった。


友里ちゃんの迫力に押され、無言で未来に携帯を手渡す。

怪訝な顔をしてそれを耳に当てた未来は、相手の声を聞いて少しだけ表情をやわらかくした。


そして、二言三言話すと、俺がしたのと同じように何も言わず携帯を返す。表情は元に戻ってしまっていた。


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