▼ 仲直りのための夢十夜
『晃太のばか』
大好きな彼女が、家出をしてしまった。
『晃太は十日後、謝りに来る。私はそれまで絶対、謝らない』
そんな『予言』を残して。
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きっかけは本当に、些細なことだったと思う。
そこからお互いにどんどん意地を張って、引っ込みがつかなくなってしまった。
大学生である俺、朝霧晃太(あさぎりこうた)は、彼女である鶴岡未来(つるおかみく)と同居中だ。
黒くて長い髪がとても綺麗な彼女――未来は、『未来が見え』て、『神に愛された子』を自称する、いわゆる電波系、というやつだ。
俺のことを『未来の旦那さま』と呼んでいきなり家に押しかけてきた。
詳しい経緯は割愛するけれど、そこからいろいろあって、俺も未来のことを好きになって、今に至る。
そんな未来は、基本的に無表情で無口。
怒っていると、ますますそれが顕著だ。
それでもいつもなら、すぐに仲直りできていただろう。お互い好き同士なわけだし、さっきも言ったとおり、きっかけは些細なことだったのだから。
だけど、今日はタイミングが悪かったとしか言いようがない。
俺たちの間に気まずい沈黙が落ちた瞬間、俺の携帯が着信を知らせた。
気まずさから逃れるためにも、俺は電話を取る。――相手は、友人の吉田だった。
『何だよ晃太、なんか機嫌悪くないか?もしかして彼女と喧嘩中とか?』
しばらく会話した後、吉田が冷やかすようにそう言った。
途端、電話の向こうでガタガタと雑音がしたかと思うと、かわいらしい声が食い気味に響いてきた。
『未来ちゃんに替わって!!!』
吉田の彼女、兼、未来の『初めての友達』友里ちゃんだった。
友里ちゃんの迫力に押され、無言で未来に携帯を手渡す。
怪訝な顔をしてそれを耳に当てた未来は、相手の声を聞いて少しだけ表情をやわらかくした。
そして、二言三言話すと、俺がしたのと同じように何も言わず携帯を返す。表情は元に戻ってしまっていた。
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