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(あったかいなあ…)
彼の体温が残っている上着は、さっきまでの寒さを少しだけ忘れさせてくれた。
彼を待ちながら、晴れた冬の空をぼんやり眺めていると、
「うわっ!めっちゃ可愛いんだけど!」
「それコスプレ?ウケル!」
「暇そうにしてんじゃん。俺らと遊ぼうか」
「え?……と、……」
三人の若い男の人たちに囲まれてしまった。確か、最初にここに来たときも怖そうな男の人に声を掛けられたけれど――どうしよう。
三人とも同じようなよくわからない柄の服を着ていて、髪の毛の色が個性的だ。赤、金、青――金はともかく、赤と青の髪の人なんて初めて見た。
「あの、暇なわけじゃなくて……今、夫と一緒に人を待っているので……」
「夫!?きみ高校生くらいじゃん」
「だいたいその旦那さんどこいんの?いないよ?」
「ちょっとイタイ子なのかな?まあいいか可愛いし」
「ええと、どこも痛くは……」
男の人たちの言っていることがよく理解できなくて私は首を傾げる。
すると、三人はなぜか爆笑した。
「やべー!ちょーうけんだけど!天然?」
「や、この子あれじゃん?おじょーさまとかじゃない?」
「あっ、じゃあなんにも知らないんじゃん。おにーさんたちがいろいろ教えてあげようか?」
よくわからないけれど、とりあえずこの人たちはあまり良くない感じがする。だけど、逃げようにもここを動くわけにいかないし……第一、塀の前に立っていたから、囲まれてしまっては逃げ場がなかった。
「あの、けっこうですから。他の方に教えてあげてください」
「や、アンタに教えてやるっつってんの」
「待っ……来ないでください!」
「いいからおとなしく着いて来―――ぐおっ!」
瞬間、私の腕を掴もうとした金髪の人が、突然うめき声を上げて倒れてしまった。
「……!?」
伏せていた顔を上げると、そこにいたのはもちろん――
「貴様等、誰の許可を取って俺の妻に話し掛けている」
「か、カズマ様!」
倒れた男の人を片足で踏みつけながら、残り二人をものすごい目で睨み付けている、彼だった。
「リン、向こうに行っていろ」
「は、はい…!」
塀のそばから逃れた私と男の人たちの間に立ち、彼は言った。
「こいつの視界に貴様等のような不快な生き物が一瞬でも入り込んだことが我慢ならないが――さっさと消えれば許す。消えろ」
だけど、『不快』だとか『消えろ』なんて言われて、気の強そうな彼らが黙っているわけがなかった。
「……ふっざけんなよ!だいたい何だよその喋り方!宇宙人かよ!」
「俺らけっこう喧嘩つえーんだけど、本気出していいわけ?」
二人は、威嚇するように彼を睨み返した。
けれど、私は二人に同情してしまう。そんなことを言ったら、間違いなく逆効果だ。
「なるほど。『本気』とやらを見せてもらおうか」
「こいつ、なめやがって!かっこつけてんじゃね―――ッ!!!」
彼に殴りかかった青い髪の人は、一瞬で仰向けに倒れ、気絶してしまった。私にはよく見えなかったのだけれど、彼は片手を軽く振り上げただけ……だったような。
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