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――と。

「やべえ……また巻き込まれた」


『ウンザリ』という表現がぴったりな声に、俺が振り返ると、そこに立っていたのは――女の、子……?だよな……?たぶん。


髪はそんなに長くない、そして日夏よりは背の高い、ジャージを着た女の子(たぶん)は、『今すぐ回れ右をしてこの場を立ち去りたい』と言わんばかりの表情をしていた。だけど、ひとつため息をついた後、彼女(で、いいんだろうか)はこちらに歩み寄った。

地面にしゃがみ込み、ひざまずいている俺に目線を合わせる。


「お兄さん、今さらわれたのは恋人さんか何かですか」

「えっ、あっ、ああ、うん」

俺は間抜けな声で返事をした。この子はさっきのを見ていたらしい。


「そうですか」

そう呟いた後、少女は深いため息をついた。


「え、と……君は?」

状況がよくわからなくて、とりあえず尋ねる。


すると、少女は地面に落としていた視線をあらためてこちらに向けた。

「私は田村紗弥と言います。ものすごく不本意ながらさっきの変態は知り合いです。だから貴方の彼女さんを探す力になれるかもしれません」

思いがけない言葉に、俺は身を乗り出した。

「えっ!ほんとに!?……あっ、俺は早瀬。さっきの女の子は日夏って言うんだ。もし迷惑じゃなかったら、協力してほしい…いや、迷惑だと思うけど……お願いします!」

とにかく藁にでも縋る思いで、俺は地面に手をついて頭を下げた。何もわからない異世界で、この子だけが頼りだ。

少女――紗弥ちゃんは、そんな俺を見て眉間にしわを寄せた。

「あの、端から見たらすごく私が微妙な立場っぽくなるので頭上げてもらえますか?早瀬さん、でしたっけ?とりあえずさっきのあの男の姉に連絡を取ってみますから」

そしてすっと立ち上がり、何かよくわからない四角いものを取り出して、耳に当てた。

そのまま、相手もいないのに何やら話している。あの四角いものを通して遠くにいる誰かと会話をしているのだろうと、俺は予想した。


少しして四角い物体を再びポケットにしまった紗弥ちゃんは、まだ座り込んだままの俺に向き直った。

「あの男はこの近くの廃屋にいるらしいです。幸いまだ日夏さんは無事みたいなので走れば間に合うと思いますよ。行きますか?」

彼女は、おそらくその廃屋があるであろう方向を指差す。

こんなに早く、居場所が特定できるなんて。俺は紗弥ちゃんがたまたま公園に居てくれた幸運に感謝した。もちろん紗弥ちゃん本人にもだ。


「ああ、行くよ!すぐ行く!」

俺は勢いよく立ち上がった。膝に着いた砂を払う。


「わかりました。こっちです」

紗弥ちゃんが、先に立って駆け出した。



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