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ユーリさんなら分かるのだろうか、そう考えた瞬間に、なぜか変な気分になった。
ユーリさんが彼の妃候補の筆頭だったという噂まで思い出してしまって、胸がちくりと痛む。
どうして唐突に今そんなことを思い出して、そして胸が痛くなっているのだろう。
「……お二人は、ほんとに仲良し、なんですね?」
気付けば口をついていた私の言葉に、彼は当然のように答えた。
「兄弟のようなものだからな」
「きょうだい、ですか」
私はそれを、どう捉えたらいいのだろう。
すると、彼がこちらを無遠慮にのぞき込む。
「何だ。やきもちか」
「ち、違っ……!」
「冗談だ」
慌てて否定すると、彼はいつもの意地悪な笑顔を浮かべた。
「……」
私が憮然としていると、不意に彼が窓の外へ視線を向けた。
「お前と初めて出会った時。あの時も、あいつが護衛として付き添っていた」
私が覚えていない、彼との『出会い』。
少しだけ穏やかに見える表情は、その時のことを思い出しているからだろうか。
と思うと、彼の目つきが一瞬にして悪くなった。
「だからあれ以来、弱味を握られっぱなしだ。気に食わん」
苦い顔で、少し前にユーリさんたちが出て行った扉の方を見る。
「弱味、ですか?」
「今日みたいなことだ」
「??」
そういえば、ユーリさんが彼に何か耳打ちをしていたけれど、そのことだろうか。
私が首を傾げていると、彼が小さくため息をついた。
「しかしあれの旦那様とやらも負けず劣らずタチが悪い男だな。今日は悪夢を見そうだ」
頭痛でもしているのか、片手で頭を抱える。
「トーマさんですか。カズマ様、今まであの方とは面識なかったんですか?」
「顔と名前だけ朧げに。文官のことはだいたい父上が把握しているからな。俺はまだ兵士たちのことだけで手一杯だ」
なるほど、と私は納得する。
それに、警護役として常に王族たちのそばにいる兵士たちと違い、文官たちはよほどの高官でなければ王族の執務室には出入りしない。
「ああいうタイプは父上が気に入りそうだ。なかなか面白そうな男ではあるが……いつか剣の稽古をつけてやる」
最後にとびきり邪悪な笑みを浮かべて、彼が低く呟く。
「そ、それは文官の方にはものすごい拷問なんじゃ……」
「そうでないと困るな。今日拷問を受けたのは俺の方だ」
たぶん、私の想像以上に彼にとっては屈辱的なできごとだったのだろう。いつも以上に顔が怖い。
私は思わず一歩後ずさった。
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