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――と、その時。
「宮田さん……!」
透き通るような声がして、俺たち三人はそちらを振り返った。
俺たちの席へ駆けて来るのは、眼鏡をかけた細身で長身の―――さっきまで写真の中でコスプレをしていた人物。
「やっぱりここにいたっ…」
その人物は、僅かに息を切らしながら、宮田くんに言った。
「あおやまさんっ!どうして?」
「いつまでも家来ないから……、このへんで仕事するって言ってたし、お気に入りのこの喫茶店かと思って……」
宮田くんから目を逸らし、青山さんは呟く。
「歩いて来たんですか?」
汗をぬぐう青山さんを見て、宮田くんは目をまるくした。
「…電車で。だって、宮田さん、車で来たでしょう?」
それを聞いた宮田くんは満面の笑顔になる。
「もしかして、遅いから待ち切れなくて来てくれたんですか?俺に会いたかった?」
すると青山さんは、顔を真っ赤にして叫んだ。
「ばッ……!今日はお前が寿司食いたいって言うからわざわざ取ったのに、全然帰ってこないから……!ただ早く寿司食べたくて…置いてたら傷むし…冷蔵庫入れたらカピカピになるし……」
最後の方の声はだんだん小さくなってしまっている。
意地の張り方が、確かに香奈さんとちょっと似てるかもしれない。
「青山さんちの冷蔵庫すごいやつじゃないですか。新鮮なままで保存できる…」
「うるさい!!!いいから帰るぞ!ばか宮田!」
青山さんは、宮田くんの腕を引っ張る。
「きゃっ、あおやまさん、強引っ!」
宮田くんが嬉しそうに悲鳴を上げ、顔をしかめた青山さんは、そこでやっと俺たちの存在に気付いたらしかった。
「あの……まさか宮田が何か、ご迷惑を?」
ぽかんとしている俺たちに、青山さんが恐る恐る尋ねる。
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