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「………ねえ私、帰っていい?」

香奈さんのげっそりとした声に、俺たちは勢いよく振り返った。


「何言ってるんですか!」
「だめですよだめ!」

二人同時に叫ぶと、香奈さんは『イラッ』という効果音が聞こえてきそうな表情を見せた。

「あんたたちの変態末期トークには付き合ってられないのよ」


夕方、香奈さんと待ち合わせ、宮田くんを『同じ宿命の元に集う仲間』と紹介したときから、香奈さんは眉間にしわを寄せ続けている。

「何が変態ですか!恋バナですよ恋バナ!」

「ジローさんの言うとおりです!お互いの好きなひとについて語り合ってるんですからっ!」


「『踏み付けられたい』『罵られたい』『冷たい目で見られたい』――変態の言うことでなくて何なのよ」

香奈さんは、ケーキにフォークをぶすっと刺して言う。


しかし、宮田くんはそんな香奈さんを意にも介さず、俺に再び話しかけた。

「ねえねえジローさん、写真のプロの技術を全開にして作った青山さんのコスプレ写真集、見ます?」

宮田くんが携帯を開くと、ナースにスッチー、猫耳に制服、メイドにうさぎ…あらゆるコスプレをした青山さんの写真が次々に映し出された。

「うわああっ!すごいですねこれ!宮田くんが合成したんですか?」

「うん、そうですよー!スッチーとか似合ってるでしょう?」

「すっごいなあ、まるで本物ですねえ!あ、香奈さんも見てくださいよ!青山さん…宮田くんの恋人のコスプレ写真ですよっ?」


香奈さんはわざとケーキから顔を上げずに答える。

「そんな犯罪の象徴みたいな気持ち悪いもの見たくない」


「香奈さん冷めすぎ!綺麗なのになあ!うわあああああこれとか香奈さんにもしてほしいなあああああっ!」

俺が興奮気味に言うと、宮田くんは「写真があれば作れますよ?」と笑った。

「香奈さん隙がなくて全然隠し撮りできないんですよ〜」

「じゃあ俺が撮りましょうか!プロの技、見せてあげますよ!香奈さんの通勤経路教えてください」

「ほんとですか!じゃあこの地図に印を……」



言いかけた言葉は、香奈さんの氷の視線によって消え失せた。

「あんたたち二人とも社会的に抹殺するわよ……?」


「ゴ、ゴメンナサイ……」
「ちょうしにのりすぎました……」

俺たちは、互いにがしっとしがみついて香奈さんに謝った。

怖い。



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