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俺は盛大に動揺した。
「えっ、ええ〜っ!?お、俺そんなことできませんよ……!」
香奈さんとあんなことやそんなこと――そりゃしたいけど、今それをしてしまったら本物の犯罪者になってしまう。
それに、こういうものには順番っていうのが……
「ジローさん、意外と純情さんなんですね。でもしかたないです、そこがジローさんのいいとこで、香奈さんを振り向かせる要素になるかもしれませんからね。わかりました、だったらできることはひとつです」
宮田くんは優しい笑顔で言った。
「なんですか…?」
「とにかく気持ちを素直に伝えることですよ。かっこわるい気持ちだって、変態扱いされるような気持ちだって、全部をありのままに。――そうしたら、例え叶わなくたって、ジローさんの気持ちは絶対に、香奈さんの心まで届くんですから」
「宮田くん…」
「それから、会いたくなったらすぐに会いに行く。合鍵……は無理でも、会いたい気持ちにだけは嘘ついちゃいけないですよ。一番シンプルで、重要な気持ちなんですから。――あ、ひとつなんて言っといて、ふたつも挙げちゃいましたね」
宮田くんは笑って頭をかいた。
「……いや、ありがとうございます。すごく力をもらえた気がする」
そうか、香奈さんにいいとこ見せたくて頑張ろうとしたりするけど、かっこわるい気持ちだって、正真正銘俺のものなんだ。
それも含めて俺ぜんぶで、香奈さんにぶつからなきゃいけないんだ。
きっと宮田くんは、宮田くんのぜんぶで――本当にぜんぶで青山さんにぶつかっていったんだろう。
だから、青山さんも、宮田くんの気持ちを受け止めた。
『変態』とか『ストーカー』とか『気持ち悪い』とか言っていたって、そんなとこも含めて、青山さんは宮田さんを好きなんだ。きっと。
俺も、香奈さんとそんな風になれたらいいな。
「宮田くん、今日仕事帰りに香奈さんとお茶するんですけど、一緒に行きませんか?」
なんとなく、宮田くんに『これが俺の好きな人なんだ』って、見てほしくて、俺は無意識に彼を誘っていた。
「お二人がいいならぜひ!あ、この近くにおすすめの喫茶店があるんです。場所決まってなければそこに行きませんか?」
宮田くんは、ニコニコ顔で承諾してくれた。
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(6/10)