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俺が、香奈さんとのこれまでのいきさつを話すと、宮田さんは涙をぬぐい、言った。
「柴田さん……いや、ジローさん!頑張ったんですね…!わかります、わかりますよ!ううっ…」
テーブルにあったティッシュを取ると、チーンと鼻をかむ。
「でも大丈夫ですよジローさんっ!青山さんだって最初は心の底から俺を罵ってましたけど、いまや『変態』『大嫌い』は愛の言葉ですからね!きっとジローさんの想いは通じます!」
「ほんとですか宮田さん…」
「年上なんだから『さん』はいいですよー!ほら、それに聞いた限りだと香奈さんは青山さんにそっくりですよ?職場の人からストーカーされてたとこまで同じですもん。それに、動物大好きでほんとは優しい!」
俺は何度も頷く。
そうそう、香奈さんは優しくて可愛くて、罵られても構わないくらいに俺の心をわしづかみにしてて。
が、そこで宮田さ…いや宮田くんはキッと俺を見据えた。
そしてこちらをビシッと指差す。
「ただね、ジローさん!ひとつ言わせていただきますよ!ジローさんは押しが弱いっっ!!!!」
「えっ?」
俺はきょとんとする。
毎日、犯罪者だのなんだのと言われ続けている俺にとって『押しが弱い』という言葉はあまりにも意外だった。
宮田くんは鼻息荒く続ける。
「相手のお人よしさにつけこむくらいの意志の強さが必要なんですよ!恋を掴むにはっ!」
「え…もうかなりつけこんでるつもりなんですけど……」
引越したときだって、お試し期間を最初に了承してもらった時だって、香奈さんがお人よしなのをいいことに、ごり押ししたようなものだ。
でも、
「甘いっ!ジローさんはまだ甘いですよ!いいですか?まずやるべきことはひとつ。合鍵を作る!」
「へ?」
「合鍵ですよ合鍵!香奈さんちの鍵を作るんです!そして毎日入り浸る」
「え、でも俺…正式な彼女になるまでは部屋には上がらない・上げないっていう自分ルールがあって…」
「そんなルールは破棄です!そして香奈さんがほだされてきたかなというとこで、寝てる香奈さんを車に乗せ、温泉へサプライズ招待!一緒に温泉に入ってあんなことやこんなことをして仲を深めるんです!そして休日には香奈さんの買い物に付き合うという名目で車内であんなことやこんなことをしてさらに仲を深める!さらには寝込みを襲ってますます仲を深めるんです!わかりますか?これくらいしないと駄目なんですよっ!……まあこれ全部俺の実体験なんですけど」
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