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「いえ、私はそういうお話を、お聞きしたいですよ」
わずかに腰を屈めてそう言うと、リンさまはおそるおそる顔を上げた。
そして、花が咲いたような満面の笑みを、私に向けた。
「カズマ様があんなに優しいのは、きっと、カザミ将軍のような方がずっと側にいてくれたからですね」
当たり前のように、そんなことをさらりと言ってのけたリンさまを見て、私は心の中で「そうか」と呟く。
癖が抜けない、などというわけではなくて。
この方がこんなにも、気持ちを素直に言葉にするから――そしてそれは、カズマ殿下にとっても同じ気持ちだから、カズマ殿下は言う必要がないのだ。
リンさまに気持ちを預けていれば、こんな風にめいっぱい広げて、やさしく包んでくれる。
だからカズマ殿下はもう、感情を押し殺しているわけでも隠しているわけでもない。
言葉にしなくてもいいほど自然に、感情と向き合えているのだろう。
だけど、たまにはリンさまのように、言いたくなってしまうのかもしれない。
必要なくても、口にしたいと。
そしてその結果、照れてしまったのだとしたら……
「カザミ将軍?どうして笑ってるんですか?」
リンさまが不思議そうにこちらを覗き込む。
「少し、自分の想像に可笑しくなってしまったんですよ」
「??」
なんだ、カズマ殿下もまだまだじゃないか。
殿下をからかいたくなる陛下の心境が少しだけわかって、そのことが楽しくも嬉しくもあった。
国王陛下の決断も、それを受け止めたカズマ殿下の痛みも、見守ってきた私の毎日も―――全て、間違いではなかった。
正しいのかと問われれば、迷いもする。
それでも、間違いでは、決してなかったのだ。
そう思えるのは、あの日々が、カズマ殿下がリンさまと出逢う『未来』に繋がっていたからだ。
そして、リンさまがここで笑っている『今』があるから。
「さて、王子妃殿下。そろそろ参りましょうか」
大広間の入口で、私はリンさまに手を差し出す。
感謝と敬愛と、そして忠誠を、この手に込めたことに、彼女は気付いていないだろう。
「はい、カザミ将軍」
重ねられた手の平は、小さくて、温かかった。
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(7/7)