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「ここのところ晩餐会続きで、お疲れではありませんか?」
「そんなことないです。カザミ将軍こそ」
「私は鍛えておりますから」
正装をして、リンさまと共に大広間へ向かう。
リンさまは、淡い色のドレスがとてもよく似合っていた。
「今までなかなかカザミ将軍と二人でお話することがなかったから、今日はなんだか嬉しいです」
「考えてみれば、そうですね」
『カズマが大人しくリンさんを預けられる』――陛下はそう言っていたが、実際のところそうでもないのかもしれない、と私は思わず勘繰った。
「今度、カズマ殿下が小さいころのお話、いろいろ聞かせてください」
屈託のない笑顔で、リンさまは私を見上げた。
「ええ、もちろんです。殿下に叱られてしまわないように、こっそりお話しましょう」
「ふふっ、そうですね」
できるだけ楽しい話を思い出しておこう、と考える。
リンさまならきっと辛い話も受け止めるのだろうが、そういうことではなくて、ただ、リンさまに笑ってほしいと思ったからだ。
リンさまは、笑顔が本当に、よく似合う。
「ところでリンさま、カズマ殿下が照れた、というのは本当ですか?」
「ええっ!どうしてカザミ将軍まで知ってるんですか…っ」
冗談めかして言うと、リンさまは赤く染まった頬を両手で覆った。
もう既に、さんざん女官たちにからわかれたのかもしれない。その時殿下はどんな反応をしたのだろうか。
「リンさまが照れさせたのですか?」
「カザミ将軍までからかわないでくださいっ…!私にも全然わからないんです」
やはりからかわれていたらしい。
リンさまは眉を下げて戸惑うように言った。
「何か、殿下をものすごく喜ばせるようなことを、リンさまがおっしゃったのでは?」
「まさかっ!あの時はずっとカズマ様が話してて………あ、でも、」
リンさまはふいに、やわらかく微笑んだ。
「その前に、私が言ったことを『嬉しかった』って、言ってくれたんです。だけどたぶん、それを聞いた私の方が、嬉しかった」
「………」
「あっ!ご、ごめんなさいっ!そんな話をしてたんじゃないですよねっ」
リンさまは慌てたように俯いた。
おそらく、自然と口をついて出てしまった言葉だったのだろう。
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