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いつからか、国内外で殿下の高い評判が囁かれるようになり、その頃から少しずつ、国王陛下が『父親』を取り戻していったように思う。

先程のように殿下をからかうこともあれば、共に酒を酌み交わすこともあった。


そして、リンさまを迎えてからはますます、二人は『父親』と『息子』に見えるようになった気がする。


―――それでも、カズマ殿下が『感情』をそのまま言葉にする姿は、私はまだ目にしていない。

リンさまにも、そうなのだろうか。




「……将軍、カザミ将軍。聞いてる?」

陛下の訝しげな声に、私は我に返った。


「珍しいね、ぼうっとして。考えごと?」

「は、はあ……申し訳ございません」

「昨日飲みすぎたんじゃない?いや、私が飲ませすぎちゃったのかな。大丈夫?」

「いえ、本当にただ、考えごとをしておりました。ご無礼をお許し下さい」

私は慌てて頭を下げる。

陛下は、特に気にする様子もなく、「それならよかった」と微笑んだ。


「あのさ、今日の晩餐会なんだけどね、私とカズマは先に会場にいなきゃいけないんだ。だから、カザミ将軍にリンさんのエスコートを頼めないかと思って」

陛下が本題を切り出す。

「それは身に余る光栄ですが……私でよろしいのですか?」

「むしろカザミ将軍以外には頼めないでしょう。カズマが大人しくリンさんを預けられる男なんて、兄君たち以外にはカザミ将軍だけだよ」

陛下は笑った。

それこそ、過ぎるほどに光栄だ。
カズマ殿下の『やきもち』は、今や王宮中に知れ渡っている。


「かしこまりました。有り難くお受けいたします」

「うん、お願いします。リンさんには私から伝えておくね」



予定外の『大役』に、私は気を引き締めた。


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