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『カズマに王としての全てを叩き込む』
私の前でそう宣言した国王陛下。
その言葉に偽りはなく、それからの陛下はカズマ殿下に『父親』としての顔は見せなかった。
冷たいと言える位のその振る舞いに、しかし眉を潜める者はいなかった。
それは、カズマ殿下があまりにも『しっかりした子供』であったことが理由だったのかもしれない。
お二人の辛さには皆が心を痛めていたが、『関係』が変化したことには気付いていなかったようだ。
陛下は、決意をカズマ殿下本人にさえ話さなかった。
だが、カズマ殿下は当然、理解していた。それが、陛下の『父親』としての愛情だということも、わかっていたのだと思う。
だからこそ、殿下も『いずれ王になる者』として、陛下に接していた。
陛下と同じく、迷いはなかったのだろう。
―――それでも、私は、心が痛かった。
この命は、陛下に預けている。捧げることはしない。してはいけない。
だが、忠誠は…心はずっと、捧げている。陛下に――そしてあの日からはカズマ殿下にも。
だから二人の決意を、どうあっても守りぬくことが、私の役目だった。
けれど、『心』というのはそう簡単に、ひとつの場所におとなしくしていてはくれない。
幼い身で、国王陛下と同じ決意を共有しているカズマ殿下。
それはどれほどの重みだろうか。
――それを考えては、何度もこの手を差し延べそうになりながら、そのたびに思い留まった。
手を差し延べていいのは、私ではない。
それは陛下なのか、まだ見ぬ誰かなのか、それはわからなかったが、私ではないことだけは理解していた。
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