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考えてみれば、殿下は私や兵士たちと何かを話す時にも『感情』ではなく『事実』を淡々と口にする。
その奥に『感情』が込められているからこそ、響くのだが。
『お前たちを信頼している』とは言わないけれど、例えば『並んで戦え』という言葉で、私たちの心を掴む。
兵士たちにとっては、そんなところも憧れに繋がっているのではないだろうか。
しかし、陛下の表情には、僅かな後悔が滲んでいた。
カズマ殿下のことを語るとき、稀に見せるその表情は、母君を失った中で愛情を与えきれなかったと、自らを責めているせいだろう。
それを後悔しても、曲げることはないと、あの日誓った生き方。
それでもやはり、時々、重くのしかかってくるものはあるはずだ。
「陛下…」
陛下のせいでカズマ殿下が『感情表現が苦手』になったわけではないはずだ――そう伝えたかったが、説得力のある言葉が思い浮かばなかった。
すると、陛下はそんな私に気付いたのか、わざとおどけた表情を作った。
「そんなんだからまず手が出ちゃうんだよね、あの子は……いや、あれはただの癖か。そんな風に育てた覚えないんだけどなあ」
また、クスクスと笑い出す。
私も、流れに任せて笑顔を浮かべた。
「それにしても、私たちは貴重なものを見逃してしまったようですね。惜しいことをしてしまいました」
「本当にねえ。照れてって言ったら照れてくれないかなあ」
「それは無理でしょう」
「あははっ、だよねえ。どんなだったか後でリンさんに聞いてみよっと」
カズマ殿下をからかいながら、国王陛下が楽しそうに笑う。
そんな光景が自然に見られるようになった今この時を、私は心から嬉しく思った。
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