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ちょうど、鏡の中に立っているかのように、普段通りの水原さんが、そこにいた。
―――いや、普段通りなんかじゃない。
普段とは決定的に違っていた。
水原さんは、笑っていたのだ。
僕の目を見て。嬉しそうに。
「こ、こんな……」
僕がいくら動揺しても、水原さんはにこにこと笑っている。
「馬鹿な……」
僕が鼻先がつきそうなほど鏡に接近しても、水原さんは逃げない。
「………つまり、これは、」
僕はふたつの事実に驚愕した。
魔法の鏡は、本物だったこと。
そして、僕が見たくて見たくてしかたがなかった一番の『望み』は―――水原さんの笑顔だったということ。
「……………」
僕は、言葉もなく、鏡の中で笑う水原さんを、ひたすらに見つめ続けた。
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(10/12)