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「……いくらなんですか」
別に買おうと思ったわけではない。
なんとなく、聞いてみただけだ。
「3000円ですよ」
「安っっ!!!!」
魔法の鏡、と言っていい代物が3000円だと?
そのときになって僕は、きっと店主に担がれているのだろうと察した。
ならば、それに乗っかるのも悪くない。
大人のジョークというやつだ。
「買いましょう」
「…おや、ありがとうございます。お家はお近くですか?宅配も承っておりますが」
「宅配でお願いします」
家にひとつ姿見があったところで困らない。旅の土産気分だった。
後に笑い話のネタにもなるだろう。
僕は自分の住所と名前を店主に教え、代金を支払った。
「では、すぐにお送りしておきます」
「ありがとうございます」
僕は頭を下げ、店を出ていこうとした。
すると、店主が言った。
「最近の若い方は、こういう品に『気付く』力でもおありなんでしょうかね」
「…?」
「数カ月前にもね、この町に住んでいた青年が買っていったんですよ。『運命の人を知らせる鏡』を」
「運命の、人ですか」
「ええ。ただし半年以内に結ばれなければ、その相手との縁が切れてしまう、というものでして。彼はその相手のところへ引越して行ったんですよ」
馬鹿な奴もいるものだ、と僕は曖昧な笑顔を店主に向けて、店の扉を開けた。
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(8/12)