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狭い店内に並ぶいろいろな骨董品を、僕はしげしげと眺めた。
正直、何が魅力なのかさっぱりわからない。
僕は、持ち物も家具も、新しくて機能的なものが好きなのだ。
店主を含め、店の雰囲気は好ましいが、やはり骨董屋というのは僕には合わないようだ。
本当になぜ、この店に入ったんだろうか。
『ごゆっくり』と言ってくれた店主には悪いがおいとまするか、と思いながら入口に足を向ける。
―――と。
古ぼけた姿見が、僕の目に飛び込んできた。
特別変わったところはない品だ。
ちょうど女性の全身が映るくらいの鏡で、前に立つ僕の頭は切れてしまっている。
デザインが奇抜なわけでもない。骨董というより、ただの中古品といったイメージだ。
そのはずなのに、どうしたことか僕はこの姿見から目が離せなかった。
何だろう。何が僕をひきつけるんだ。
「お客さん、お目が高いですね」
背後からいきなり声を掛けられ、僕はびくりとして振り返った。
店主が、穏やかな笑顔にわずかないたずらっぽさを滲ませて、そこに立っていた。
「え…」
「この姿見は、持ち主が一番に望むものを映し出してくれるんですよ。普段はただの鏡ですが、願えばいつでも、望むものを見ることができる」
「…そんな馬鹿な」
僕は魔法やオカルトといった類のものはまるきり信じていない。
店主の言葉を一笑に付してしまいたいところだったが――なんとなく、それができなかった。
「望むもの……例えば?」
「そうですね。死に別れた家族、離れいってしまったかつての恋人、心に描く幸せな未来………とにかく、『望み』が形を持って映るんですよ」
「未来まで…」
「ただし、映すことができる『望み』はひとつだけです。持ち主が生きている間は、はじめに望んだものだけが、映り続ける。願うたびに」
「最初に登録した画像だけが再生されるわけですか」
「これの力に気付いたわりには、夢のない物言いをなさる方ですね」
店主は小さく笑った。
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