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頬杖をつき、流れていく景色をぼうっと眺める。
さっきまでごちゃごちゃとした都会の風景が映っていたのに、今は山と川がひたすら続いている。
自然の力の前では、僕のちっぽけな恋心なんて、押し流されてしまいそうな気がした。
少し寂しいけれど、それを望んで旅立ったのだ。押し流されてくれればありがたい。
次の駅が近いとアナウンスが告げる。
わずかに民家やスーパーなどが姿を現し始めた。
「あー、やっと家に帰れるなあ」
「そうだなあ、都会はうるさくてかなわんかったなあ」
次の駅で下車するらしい初老の男性二人が、伸びをしながら喋っている。
「どんなもんでも揃ってるのはいいけどなあ、やっぱこっちが住みよいなあ」
「アスファルトの道にびっしり建物が埋まってるんだもんなあ。窮屈でいかんかったなあ」
「砂利道にぽつんぽつんとお稲荷さんがあって、ちょっと歩けば神社がある。やっぱりこの風景がいちばん落ち着くよなあ」
「そうだなあ」
お稲荷さんか。
都会にいればめったに聞くことのないそんな単語に、僕は心を動かされた。
よし、僕もこの駅で降りることにしよう。
駅の周りには何もなかった。
田舎を絵に描いたような場所だ。
ただ、一駅先には大きな商業施設があるらしく、意外と暮らしやすいように思える。
「将来はここで隠居するかな…」
そんなことを呟きながら、僕はこの町をあてもなく歩き始めた。
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