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現実を受け入れるまでには時間を要した。
落ち着いてひとり考えに考え、僕はやっと理解した。
水原さんは僕のことを好きじゃない。
そしてあの犬のような男のことがずっと好きだった。
さらに、僕はストーカー予備群と思われていた。
『ショック』というものが、ここで初めて僕を襲った。
ストーカー扱いされるのはまっぴらだ。
今の立場が大切だ。
だから、これ以上水原さんにアタックすることはできない。
(そもそも成瀬さんに念書を書かされているし)
つまり水原さんに好かれることは決してないのだと―――その事実に、思いのほかうちひしがれていた。
確かに僕は、プライドが高くて、自分がかわいくて、結果的に勘違い男のストーカー予備群だったかもしれないけれど、
「僕なりに、水原さんのことが好きだったんだけどな……」
窓辺に佇むサボテンにそう話しかける。
きみだけが、僕のこの想いを知っているんだな。
そんなことを考えてたそがれていると、ふいに――
「そうだ。旅に出よう…」
そう思い立った。
青春18きっぷを買って、ぶらり途中下車の旅だ。
目的は観光じゃない。何もない田舎の駅に降り立って、気の向くままに漂うのだ。
この想いを洗い流してくれる方法は、それしか思いつかない。
僕はさっそく、きっぷを買いに走った。
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