▼ 秋山の幸せな結末
僕は秋山。
先日、失恋といわれのない屈辱を同時に味わったばかりで傷心中だ。
失恋相手は、水原香奈さん。
会社の女子社員だ。
仕事は完璧、しかしめったに笑顔は見せず、淡々と日々の業務をこなす――クールビューティーと名高い彼女がある日、僕に笑顔を見せてくれたことが始まりだった。
仲のいい先輩である成瀬響子さんに対しても、水原さんはいつも呆れたような顔をしている。
それなのに、僕には笑顔を見せてくれた。
あの笑顔は愛想笑いなんかじゃなかったはずだ。
きっとあの時僕が言った冗談が面白かったか、水原さんが僕のことを好きか、だ。
いや、きっと両方だ。そうに違いない。
そう考えた僕は、さっそく水原さんを何度も食事に誘った。
正直、有能な女性が好きな僕は水原さんのことを好ましく思っていたのだ。
――しかし、
「貴方のことは好きじゃありません」
そう言って水原さんは全ての誘いを拒否した。
おかしい。
好きな男に誘われて、どうしてそんな反応をするのか。
こっちは「でも僕は好きだ」とまで言ったのに。
それに、本当に嫌ならもっとはっきり断るはずだ。
―――照れてるのか。
僕はそう結論づけた。
それなら、水原さんが素直になれるまでアタックし続けよう。
それが、惚れられた者のつとめでもあるしな。
――――だが。
「彼氏なんです」
僕は頭上に巨大な岩が落ちてきたかのような衝撃を味わった。
彼氏だと。
そんなはずはない。
水原さんは僕のことが好きなはずなのに。
何かの間違いだ。絶対に。
しかも相手は、僕と違って頭の悪そうな男。
運動公園でふたりがバドミントンをしてる姿なんて、飼い主と犬がじゃれているようにしか見えなかったのに。
そんな奴が水原さんの彼氏?
―――怪しい。
僕は、ひとつの策を練った。
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