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そんな時に、四つ葉堂書店のことを知った。

私書箱宛てに、読みたい本のリクエストを送ると、店主がそれに沿った本を選んで配達してくれると。

僕は、四つ葉堂書店にリクエストを送ってみることにした。

『死にたくなれる本』を。


どうせ「死ぬことはよくないことだ」と説いているような本が来るんだろうな、と思っていた。

大人を憎んでいるわけでもなんでもないけれど、大人が「死ぬ」と言っている子供に対してとる行動は、簡単に予想できるからだ。

だけどもしかしたら、森のように本だらけだと噂の四つ葉堂書店なら……僕の想像も及ばないような、死にたくなるような本があって、そんな本が届くかもしれないと期待した。




しばらくしてから届いた本は、やはり『死にたくなれる本』ではなかった。

けれど、「死ぬことはよくないから生きろ」と訴えかけるような本でもなかった。


ある男が、死んでゆく様を描いた本だった。丁寧すぎるほどに、ひとつずつ、描いていた。

ただ、『死』とはこういうものだ、ということが一つの形で示されていただけの本。言ってしまえばそんな一冊だった。


「これを読んで死にたくなれ」でも「死んだらいけない」でもなく、これを選んだ店主は、「死ぬことについて何も知らないくせに偉そうに死んだ方がいいなどと判断するんじゃない」と言いたいんじゃないかと、勝手に思った。


もちろん、店主は学校の先生でも何でもないから、そんなことも思わずに何となく選んだのかもしれないけれど。


知らないものに対して、良いも悪いも決められない。

まず死ぬことについて知ってから、死にたいか死にたくないか、決めても遅くないだろう、と。



しかし、簡単に言うと、この本を読んで『死ぬこと』がわかったわけではなかった。


わかったことは、死にたくならなくても、人は死ぬこと。

生きている意味がなくても、死なない限りは『生きている』こと。


『死にたい』ことが『死ぬ』ことにつながるわけでもないし、『生きている意味がない』と思う気持ちと生死の間には、何の関連もない、ということ。

『死』は、ただそこにあるだけのもので、他の何とも違うものだということ。


だから『死んだ方がいい』とか『生きていてもしかたがない』なんて、こちらが決めたからといってどうなるものでもないのだった。

死ぬ時は死ぬし、それまでは生きているのだから。

そんな風に無情で、容赦のないものだったのだ。

死ぬことも、生きることも。



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