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「ご馳走さまでした、と言うべきなのでしょうね。空腹なのですけれど。……まあ、たまにはこんな日があっても良いでしょう」
そんな言葉を最後に、ふっとおじさんの気配が消えた。
「あ……」
なんだか少しだけ寂しいような気がして、私は思わず、おじさんを呼び止めそうになった。
だけど当然、おじさんはもういない。
私が、彼に恥ずかしくさせられて零す涙を『甘酸っぱい』と、
そんな私の涙を独占している彼を『幸せ者』だと、そう言っていたおじさん。
彼の主食は涙なんかじゃないけれど、もしも本当におじさんの言うとおりだったなら、すごく嬉しい。
私に『甘酸っぱい』涙を零させることができるのは彼だけだから、彼がひとりじめするのは、当然なのだけれど。
もし、彼が『幸せ者』なのだとしたら、私はそれよりもっともっと、『幸せ者』なんじゃないかと思った。
私の反応を見て、おじさんが帰ったのだと気付いたらしい彼は、満足そうに笑った。
私の手を取って、自分の口元に近づける。
「いただきます、とでも、言った方がいいのか?」
「〜〜〜っ!」
私はもう、彼の顔をまともに見ることができなくなってしまった。
end
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