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「や、やだぁ……っ」
情けなくあげた声は、涙まじりになった。
はからずも、おじさんの要求にこたえることになってしまいそうで…。
――だけど。
溢れる寸前で、彼が私の涙を親指で拭った。
「あっ…!」
「あああっ……!」
私とおじさんの声が重なる。
彼はふっと笑うと、その親指をぺろりとなめた。
「……っ!」
ぽかんとしている私のむこう――ひじ掛けの方に視線を向けた彼は、
「悪いな、美食家とやら。これは全部、俺のものだ」
そう言って、不敵な笑みを浮かべた。
「な、なんと…!また奪われてしまった……!今の涙は、特別美味しそうだったというのに……なんと欲張りな御仁だ」
おじさんはがくりと膝をついた。
絶望的なその表情に、なんとなく良心が痛む。
おじさんの方を見ていた私は、彼に頬を撫でられて、慌てて振り返った。
「涙だけじゃないのは、わかってるな?」
彼は私にも、不敵な笑顔を向けた。
「わ、わかっ……意味がわかりませんっ!」
動揺して、思わず何度も首を振ってしまう。
「それは、わからせてほしい、という意味か」
答えは聞かずに、彼が私を組み敷いた。
器用にひじ掛けを避けて。
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