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しかしおじさんはそんなことを気にする様子もなく、せつなげな表情で彼の方を見た。

「もう何日も食事にありつけていません。今日こそはと思ったのに……思わぬ妨害にあってしまいました」


「あ、あの…それは……ごめんなさ、」

私が言いかけたところで、肩をぐっと掴まれた。


「わわっ!」

「熱があるのか?………熱い」


彼が私のおでこに手を当てて、思いきり怪訝な顔をしている。

彼の目には、私が一人で喋っているようにしか見えなかったのだろう。無理もない。


「ち、違います!熱いのは違う理由で…!あの、ここに…人がいるんです」

私はおじさんを指差した。おじさんに失礼かとは思ったけれど。


「人、だと?」

彼は目をこらす。しかしやっぱり、彼には見えないようだった。

「俺には見えない。だが、お前がいると言うなら、いるんだろう。……で、そいつは何者なんだ?」


「あの……旅の美食家さん、らしくて。涙が主食で、私の涙を飲もうとしてた、そうです」

「お前の涙を?………男か」

彼は鋭い目でひじ掛けの方を見た。

「え、おじさん?です…けど」


私が彼に答えていると、おじさんがため息をつきながら独り言をつぶやいた。

「甘酸っぱい涙に出会える機会はなかなかないというのに……ああ、何ということだ。よりによってこんな空腹の日に、こんな貴重な涙を逃してしまうとは」


私が「えっ」と振り返ると、彼は「どうした」と尋ねてくる。


「あ、あの、貴重な甘酸っぱい涙を、カズマ様に取られてしまったから……困ってるみたいです」

「甘酸っぱい?しょっぱかったが」


彼が無感動な声でそう言うと、おじさんはショックを受けたように頭を抱えた。

「なんと!涙の味もわからないような方に、私の涙を奪われてしまったとは!悔やんでも悔やみきれません…!」


「あの…美食家さん、ごめんなさい。カズマ様に悪気はなかったんです」


「ああ、貴女が謝ることではありません。……けれど、もしよろしければ、もう一度、涙を流していただけませんか?このままでは私は、空腹で倒れてしまいます」

「そ……そんな、泣けって言われて泣けるものじゃ……」




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