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―――その時。
「ああっ!私の貴重な食事が!」
「……え?」
小さい、けれど悲痛な叫び声が聞こえ、私はきょろきょろと辺りを見回した。
「どうした」
彼が手を止めて、眉をひそめる。
「い…今、誰かの声が……」
「声?」
ソファに座り直し、私は声の主を探した。
すると、
「あ………」
私の視線の先――ソファのひじ掛けの上に、見たこともないような生き物が、立っていた。
見た目は、人だ。
だけどすごく……すごく小さい。
おじさん、といえるくらいの見た目をしていて、服装はタキシード。頭には、硬そうな黄色い帽子のような…よくわからないものを被っている。
そしてその手には、体のわりに大きなバケツを握っていた。
「カズマ様!このひと…」
彼を振り返ったけれど、小人がいる方を向いているはずの彼は、不思議そうに首を傾げている。
彼には、見えないのだろうか。
なぜだろう、と戸惑う。
私はとにかく、本人に直接尋ねてみることにした。
「あの、あなたは……どなたですか?」
少し背をかがめて小人のおじさんに問うと、おじさんは目を見開いて跳び上がった。
「なんとっ!貴女にも私が見えるのですか!……最近は、見える方ばかりですな。いやこれは参った」
「ええと、それってつまり、あなたは普通は見えないはずのひとなんですか?」
「普通は、そうですな。私は旅の美食家。貴女の涙をいただこうと、ここで待っていたのですが……そちらのお方に、先を越されてしまいました」
「涙、を……?」
「私の主食は涙なのです。あなたが、恥ずかしくて恥ずかしくて流した涙、それをいただくつもりでずっとここで待機していました」
「えっ…!」
不思議すぎる事態だけれど、つまりはさっき一人でじたばたしていたところも……見られていたらしい。
私はまた頬が熱くなる。
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