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「秋太!?」
フクロウは驚いた表情で叫ぶ。
らしくもなく、余裕を失っているようだ。
「やっと見つけた。ほら、帰ろう」
秋太と呼ばれた少年は、右手をすっと差し出した。
「なにその手」
「繋いでないとまた迷い込むって。反対の手は、みのると鹿と繋いでる。ほら、早く」
「……」
フクロウが顔をしかめて黙っていると、尻餅をついたままの日向が口を挟んだ。
「こいつがお前の好きなシュウタかっ!」
フクロウはすっと振り返ると、日向の肩をぐいっと踏みつけた。
恐ろしい表情で日向を見下ろす。
「違う、と、何度言ったらわかるの?馬鹿なの?」
「いてっ!いてえやめろ!」
悲鳴をあげる日向を、フクロウがさらに踏みつけていると、半分だけの少年が嬉しそうに言った。
「え、フクロウ俺が好きなの?」
その言葉に、フクロウが少年の方を向く。
「スミマセン冗談です」
少年がすぐさま前言撤回したのを見るに、フクロウは少年にも同じ視線を向けたのだろう。
フクロウは踏みつけていた片足を日向の肩から離すと、偉そうに腕を組んだ。
「別に、嫌いではないわよ。例えばその……寝癖の角度とかは」
顎をくいっと少年に向ける。
「はあっ?」
少年は髪を撫でつけながら首を傾げた。
フクロウは、再びくるりと振り返ると、今度は小さく笑いながら日向の目線まで腰をかがめた。
「あんたも。毛並みは嫌いじゃないわ、ありがと」
ぽんぽん、と肩についた汚れを払う。
「毛並み…?」
フクロウは、さらに首を傾げている少年の方にすたすたと歩み寄った。
「はい、」
ツン、という効果音が聞こえてきそうな表情で、フクロウは少年に手を差し出す。
「おっ、おう」
少年はフクロウの手をとると、『むこう』の世界に消えていった。
フクロウも、もう振り返ることはなく、あっけなく姿を消した。
「俺は犬じゃねえっつってんだろ!」
暗闇を取り戻した並木道には、日向の叫びだけが残されたのだった。
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