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「とにかく、おじいちゃんは研究の結果、バイクの『好きな食べ物』を突き止めた」

「それがチョコレート」

「そう」

少女は頷く。


「だけどね、この試作品は――あっ、私は『ゼロ号』って呼んでるんだけど――とにかくこの子は、グルメなの」

本当にペットか何かのような言い方だ。どちらかといえば友人と言った方が近いかもしれない。


「地上を走るだけなら普通のチョコレートで平気なんだよね」

少女は背負っていたリュックを膝に置くと、中に入っている大量のチョコレートを見せた。

その赤い包みはロッツ社のものだ。

「でもそれじゃ、改造の意味がないでしょう?チョコレートは油より割高だし。飛ぶためのバイクなのに飛んでくれないんじゃつまらないし」


僕が少女の立場なら、飛ぶバイクなど貰ったところで倉庫にでも眠らせてしまうのがオチだろうから、その言葉には特に共感できなかった。


「おじいちゃんがね『最高のチョコレートをくれたら飛んでやるって言ってるぞ』って。まったく、どんな改造をしてこんなわがままなバイクに仕上がったんだか」

つやめく車体を撫でながら、少女は唇を尖らせる。

「でもまあ、可愛い私のバイクだし、なんとかして空を飛びたいし、いろいろ試したんだよね」


リュックを背負い直し、少女は軽い音をたてて地面に着地する。


「ロッツ社の最高級チョコレートでもだめだったから途方に暮れてたんだけど、そんな時、アンリくんの噂を聞いたんだよ」


僕の鼻先に人差し指を突き付けて、少女はにっこりと笑った。


「本当のチョコレートの美味しさを知っている人は皆、丘の上のチョコレート屋さんに行くんだ、って」

「それはどうでしょうね。所詮は噂ですから」

「まあ、国一番のチョコレートでもこの子の口に合わなきゃ意味ないからね」


結局のところ、何ひとつ褒められていないように思える。

もちろんこの少女は僕を褒めるためではなく、バイクを飛ばすためにここに来たのだが。



「さーて。じゃ、給油しようか」

少女は、紙ナプキンに包んだチョコレートをポケットから取り出した。

そして座席を持ち上げる。

その下が給油口になっているのだった。

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