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「んーっ!んーっ!」
口を塞がれたリンがカズマの方を見て何かを言おうとしている。
心なしか怒った顔をしているように見えるが、何が言いたいのかわからない以上、理由もわからなかった。
すると、
「うるせー!黙ってろ!」
リンを拘束している男が、片手で彼女の髪を引っ張る。
「んんーっ!」
リンは男を睨みつけるが、動きを封じられていてはどうしようもできなかった。
男は、舌打ちをしながらさらにリンの髪を引っ張った。
「ったく、俺はこんな女、趣味じゃないってのに。捕まえるならもうちょい色っぽい女がよかったぜ」
――それが『均衡』を崩すこととなった。
「カズマ殿下っ!お待ちを!」
カザミの制止は一瞬遅かった。
カズマが無言で地面を蹴った。
剣は先程からずっと、抜きっぱなしである。
鋭い眼光が男を捉え、相手はそれだけで怯む様子を見せたが、リンを離すことはない。
それでも、カズマは速度を緩めることなく男に突進していった。
「やれやれ、こうなってしまうと必然的に役割分担は決まったな」
「……両手が自由で魔術の使えるあの男が、私の相手というわけですか」
涼しい顔をしたフォレガータと、苦笑するカザミも、するりと剣を抜き、それぞれの『相手』に向かって走り出した。
「何、問題はない」
フォレガータが不敵に笑う。
「魔術を使わせる前に倒せばいいのだから」
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