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「あ、追跡魔法に気付かれた」

キリの声が、カザミを現実に引き戻した。

「でももう、必要ないか」


キリが指差す先には、かろうじて雨風を凌げるくらいのボロボロの建物。


そして、

「女王陛下がわざわざお越しとは、脅迫状を届けに行く手間が省けて助かったぜ」


『人質』をそれぞれ抱き抱えるようにして現れた二人の若い男たち――その間に立つ、いかにも悪党面をした中年の男がニヤリと笑った。

実行犯の二人を従える首領、といったところだろうか。


実行犯二人に拘束されたリンとカントは、手首を縛られている上に口元を押さえ付けられており、声を出すこともできない様子である。


「こちらもわざわざ出迎えてくれたおかげでノックの手間が省けて助かった」


顔色ひとつ変えず、フォレガータが首領に切り返す。


その隣で、不穏な金属音がカチャリと響いた。

「殺す」


抜き身の剣を構えて右足を踏み出したカズマの肩を、フォレガータが強く掴んだ。

「少しは落ち着け」

「……っ」


フォレガータはそのままキリの方を向く。

「三人とも魔術師か」

「みたいですね。それから、」


キリが全てを言い終える前に、建物の陰から十人近い男たちが一斉に姿を現した。

皆、剣呑な目つきをしている。


「なるほどな」

「魔法は使えないみたいですけど」

「どうでもいい、さっさと片付ける」

「殿下、彼らの相手は兵士に任せ、私たちであの三人を」


カザミが言った時にはもう、兵士三人が向かってくる男たちに応戦していた。


「つよい……!」

キリと手を繋いだエムシが、口をあんぐりと開ける。

兵士たちは倍以上の人数を相手に、完全に優位に立っていた。


「これくらい、カザミ将軍との稽古に比べたら準備運動にもなりませんよ!」
「ていうか目をつぶってても勝てそうだ」
「それなら俺は利き腕を使わなくても勝てるな」


兵士たちは、腕は立つが、お調子者がたまにきずである。

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