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館長は、あくびをしながら一冊の本を日向に手渡した。


極彩色の背景に、どや顔の中年の姿が写し出された表紙。
日向が以前、『ハロウィン』という異世界の祭について学んだ、なじみの本だ。

異世界を旅する能力を持った精霊が執筆した旅行記である。


日向は、本をパラパラとめくると、あるページでぴたりと手を止めた。

そこに書かれている一文を指差す。

「ほら…『バレンタイン』!やっぱ間違いねえ。お前がいたのはこの世界か!?」

フクロウが本をのぞきこむと、『この世界には他に、バレンタインという祭もあり、女性が意中の男性に菓子を贈るものである。』と書かれていた。

それ以前の『この世界』の話までさかのぼって読み、フクロウは驚いた表情で頷く。

「……ええ、そうだわ。何なのよこの本」


それを聞くと、日向は重そうな瞼の館長の肩を掴んで揺さぶった。

「館長!この作者のおっさんに会わせろ!ダチなんだろ?異世界に行く方法聞きてえんだ!」

頭をがくがくと揺らされていながら、館長はまだ眠そうな声で答える。

「確かに古い友人じゃが…今はまた別の世界を旅しとって、連絡はとれんわい」


「んだと!じゃあどうしろってんだよ!」

日向はさらに強く館長の肩を揺さぶる。


「ちょ、ちょっとあんた、やめなさいよ」

見兼ねたフクロウが日向を館長から引きはがした。


館長は「おう嬢ちゃん、助かったわい」とフクロウに笑いかけてから、日向に向き直る。

意地悪そうな表情だ。

「早瀬のとこの垂氷も、こいつとは知り合いじゃぞ。力もあるし、何か知っとるかもしれんの」

「ネコ野郎かよ……」

日向はがっくりと肩を落とした。



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