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リンとカントの救出に向かう顔ぶれは、フォレガータにキリ、エムシ、それからカザミと兵士三人、そしてカズマである。
「この先です」
キリの見立てでは、森にある廃屋に賊は潜伏しているという。
「隠れ家まで用意しているとは周到なことだ。以前カズマ王子がノグ国に来た頃から計画していたのかもしれないな。さしずめ二国の交流を良しとしない連中――違法すれすれの貿易で富を得ている者たちといったところか」
「二人を人質に協力関係を白紙に戻すよう要求する、みたいな?」
「あまりに稚拙だがそんなところだろう」
「二人に危害をくわえるようなことは、ないのでしょうか?」
「大丈夫、エムシ。今のところ二人は無事だよ」
前を歩くカズマの背中と、その更に先を行くノグ国一行を見比べながら、カザミは内心で苦笑していた。
娘を心配していないわけでは絶対にないだろう。しかし、フォレガータやキリは驚くほどに落ち着いている。
確かに先程キリが『油断はしちゃいけないんでしょうけど、相手ははっきり言って雑魚です』と言っていたから、危機感は薄いのかもしれないが。
(ちなみにキリはフォレガータに『その雑魚にしてやられたわけか』と返され、頭を掻いていた)
しかしおそらく、それだけではないのだろう。
おろおろと不安げな様子だった幼いエムシまでもが、二人の冷静さに感化されたのか、引き締まった表情になっている。
一方の主はというと、先程からずっと、静かな怒りを募らせているのがわかる。
フォレガータの忠告は身に染みているだろうから無謀な真似はしないだろうが、ただ単に沈黙しているだけで、全く冷静になどなっていないことは一目瞭然だ。
守りたいものが同時に『弱点』であるか否か、の違いだろうか。
この主を強くしているのが、妃の存在であること――それは疑うべくもないが、こうして当の妃を失ってしまえば、主は極端に脆くなる。
問題は、自覚をしていても抑え切れないということだろう。
両刃の剣、という言葉がカザミの頭に浮かんだ。
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