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二杯目の紅茶がなくなるころ、部屋の扉が激しくノックされた。
普段こんな真似をするものは、この国にはいない。
異変の気配を感じ取り、カズマの眉間に皺が寄る。
同じくフォレガータも、眉を潜めた。
駆け込んできたのは、臣下ではなく――キリであった。
「すみません陛下」
開口一番、謝罪を口にする。
いつもは『母さま』と呼ばせたがるフォレガータも、そこには触れなかった。
「やられました」
「何があった」
キリは、ちらりとカズマに目線を遣り、それから言いにくそうに口を開いた。
「リン王女とカントが、攫われました」
母親である女王と夫である王子が、同時に椅子から立ち上がった。
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「魔法の気配がして駆け付けたら、二人の男が空に消えていくところでした」
リンとカントの二人はその時、カザミやキリ、エムシと別の場所にいたらしい。
魔術師であるキリが植物たちに尋ねたところ、空から突如現れた二人の男が、少女たちを乱暴に抱えてすぐに飛び去ったという。
「まさかこんなところにまで着いてくる執念深い輩がいるとはな――」
フォレガータが苦々しく呟く。
「すみません、守れなくて。ただ俺の追跡魔法が何とか届いたから、行き先はわかると思います」
「感謝する、キルッシュトルテニオ皇子。むしろ警備に穴があったこちらの落ち度だ。申し訳ない」
「この国には魔術がない。魔術に対する防衛など出来なくて当然だ」
早足で中庭に向かいながら、キリはカズマを盗み見る。
カザミから『冷静さを失い暴走なさるようなことがあれば、力ずくでも止めてください』と言われていたのだが、見たところ、拍子抜けするくらいに冷静である。
そのカザミは、救出のための精鋭三人を部下の中から集めており、中庭で合流した。
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