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「カズマ王子、リン王女からお手紙でお伺いしていたカザミ将軍には、お会いできますか?」
エムシがカズマに怖ず怖ずと尋ねる。
「ああ、本来なら国王の外遊に同行する予定だったんだが、エムシ皇子たっての希望ということで王宮に留まってもらっている」
「ほんとうですか、ありがとうございます!」
「無理言ってすみません」
「特に無理をしたということはないから問題はない、キルッシュトルテニオ皇子」
「キリでいいですって」
「くだけた友人同士というわけでもないのにそれは無礼だろう」
「はあ……」
カズマの頭がかたいのは相変わらずだった。
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「わああっ!高いです!」
「怖くはありませんか?」
「はい、平気です!」
「ずるーい!カントもー!」
「カント、順番。カザミ将軍は一人しかいないんだから」
エムシを肩車するカザミの腰にカントがまとわりつき、キリはそれを呆れ顔で眺めていた。
「ふふっ、キリ皇子も肩車してもらわなくていいんですか?」
リンが楽しそうに笑いながら、キリの隣に立つ。
「肩車をされて喜ぶ歳でもないですよ」
自分こそまるで子供のようなこの王子妃にそんなことを言われ、キリはなんとなくおかしな気分になった。
とは言え、カザミと無邪気に触れ合える弟たちを多少うらやましく思ったのは事実だった。
穏やかな人柄と、落ち着いた物腰。それでいて剣の腕前は国一番とも噂される――目の前の将軍は、幼いエムシだけでなくキリの目にも眩しく映る。
カントはおそらく『やさしいおじさん』とでも認識しているのだろう。会ってすぐに懐いていた。
「じゃあカント、カザミしょーぐんと手つなぐー」
「かしこまりました」
カントがのばした小さな右手を、カザミは左手で丁寧に握った。
「エムシ様、片手を失礼致します。しっかりとつかまっておいてください」
「はい!」
カザミの頭にしがみついたエムシは、憧れの将軍に何を言われても、嬉しそうに目を輝かせている。
そんな姿を見ていると、自然とキリの頬も緩んだ。
「反対の手は、りんちゃんね」
カントが、左手をリンに差し出す。
「はい、ぎゅーっ」
二人して声を合わせて手を握り合う。
それを見たカザミが、微笑みを浮かべながら少し歩調を緩めた。
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