▼ びーらぶのみち2
王宮の門に馬車が停まったことをバルコニーから確認すると、リンは跳ねるように踵を返し、スカートの裾を持ち上げると、足音を響かせながら駆け出していった。
「フォレガータ女王陛下、キルッシュトルテニオ皇子、エムシ皇子、カント皇女――よくいらっしゃった。歓迎致します」
「感謝する、カズマ王子」
「かずまさまー、りんちゃんはー?」
「こら、カント」
「だってキリ兄さま、カント、りんちゃんに会いたい」
「ああ、妻もおそらくもうすぐ……」
すらりとした体躯に、凛々しい瞳。剣を携え、軍人のような身なりをした、ノグ国の女王・フォレガータ。
そしてその息子であり、フォレガータの夫で魔術師であるアガタの弟子・キルッシュトルテニオ――通称キリ。
その弟で、利発な瞳が印象的なエムシ。末の妹・カント。
そして、夫であるカズマが立つ王宮の門前に、リンは息を切らして駆け寄った。
「みなさんっ……お待ちしてました!遠いところをよく……っ」
「とりあえず落ち着いてから喋れ」
呆れ顔のカズマがリンの背を撫でる。
「りんちゃーん!」
「カントちゃん!」
飛びついてくるカントを抱きしめ返し、リンは満面の笑みを浮かべた。
「久しぶりだな、リン王女。いつも手紙をありがとう。皆で楽しく読ませていただいている」
「フォレガータ陛下!お会いしたかったです!……?アガタさんは……?」
リンはきょろきょろと、辺りを見渡した。
美味しい紅茶をいれてくれて、励ましてくれて、花の種もくれた、あの呑気そうな青年の姿を探す。
女王の夫である彼は、何度か手紙のやりとりをした際に『陛下とかそんな呼び方しなくていいから』と言われていた。
「あの男は留守番だ。全員が城を空けるわけにはいかないからな」
「そうでしたか……」
そもそも『えー、遠い』『お前はまたそうやって!』などというやりとりがあったのだということを、フォレガータは黙っておくことにした。
「新しい紅茶と花の種を渡しておいてくれと頼まれた。後で届けさせよう」
「わあっ、ありがとうございます!」
女性陣のやりとりの傍らで、キリはカズマに声を掛けた。
「カズマ王子、アガタに会いたかったんですか?」
「何故だ?」
「残念そうなので」
「確かにそうだな。アガタどのには世話になったから」
当人が聞けば『世話なんかした覚えないんだけど』とでも言いそうだとキリは思ったが、カズマもアガタがいないからこそ、このような言い方をしているのだろう。
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