▼
「妻が俺を振るはずがないだろう。出鱈目もいいところだ。撤回しろ」
「神様がそうおっしゃっているんだもの。私はそれを伝えただけ」
「ふざけるな。理由がない」
「そうかしら。たくさんあるはず。胸に手を当てて考えてみなさい」
「自分の胸に手を当てて何が楽しいんだ」
殿下と占い師の攻防は、ヒートアップしていた。
(陛下が『そういうとこじゃない?振られる理由』と小声でおっしゃっていたけれど俺しか聞いていなかったと思う)
「カズマ様、わ、私、カズマ様を振ったりしませんから!落ち着いてください!」
「そういう問題じゃない。この小娘は俺たちを愚弄した。女だろうが容赦しない。斬る」
完全に目が据わっている殿下が、腰に携えていた剣を抜いた。
「わ、わあああっ!待ってください、殿下!」
俺は慌てて駆け寄り、殿下と占い師の間に立ち塞がった。
「何のつもりだ、アサギリ」
「あ、いや……」
身体が勝手に動いてしまった。どうしよう。
「そ、その、この子は、ですね……きっと、悪意があったわけではなくて、その……」
「そんなことはどうでもいい。俺の未来を勝手に決めつけたその女が不快なだけだ」
「あなたが占えと言ったんじゃない」
「占えと言ったのは父上だ。俺は何も知らずにここに呼び付けられた」
「そう」
「貴様……やはり斬る」
「うわああああ待って!!!」
「さっきから何だ、アサギリ。お前も斬られたいのか」
「ま、まさか!」
殿下の鋭い視線がこちらを向いた。
とばっちりだ。
でも、なぜか、この子を助けなきゃいけない。そんな気がした。
「お、俺は……この子は出鱈目を言ってるわけでもふざけてるわけでも、殿下を愚弄してるわけでも……ないと思います!」
「何……?」
ちらりと占い師の女の子を見ると、彼女は少しだけ表情を変えて俺を見上げていた。
そんな場合じゃないけど、可愛い。
俺は気を取り直すように、息を吸い込んだ。
prev / next
(7/16)