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ここはどこだろう。
そして俺は何故、着物を着ているのだろう。
というか、俺はどこの誰だろう。
俺は脈絡もなく、木造で畳の敷かれた見知らぬ部屋で、あぐらをかいていた。
電気ではなく、ろうそくの火が、ぼんやりと部屋を照らし出している。
全てが和風だ。江戸時代くらいのイメージ。
ここは俺の家なんだろうか。
首を傾げていると、
「……!?」
不意に明かりが消えて、視界が真っ暗になった。
そして、
「う、うわっ!?」
首筋に、冷たくて尖った感触。
これってもしかして、刃物――?
「おとなしくしなさい、朝霧晃太。騒ぐと殺す」
研ぎ澄まされたような冷たい声が、右耳を撫でた。
「……っ!?」
「下手に動くと、切れる。気をつけて」
振り返ると、黒ずくめの服に黒い頭巾で目元以外を全て隠した、華奢な女の子が、小刀を俺の首に突き付けていた。
切れ長の瞳は、暗闇でもわかるくらいに、綺麗だ。
「に、忍者……?」
「くのいち」
「あ、はい。ええと、くのいちさん、何でこんなことを……?」
「心当たりはあるはず。素直に例のものを渡せば、命までは取らない」
「れ、例のもの???」
自分が誰かさえわからない俺には、全くわけがわからない。
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