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『未来ちゃんにはうちに泊まってもらうことにしたからね!晃太くんが反省するまで一ヶ月でも二ヶ月でも居ていいって言っといたから、未来ちゃんを返してほしかったらさっさと謝りなよね!』
「……え?」
思いがけない展開に、俺は口をあんぐりと開けた。
ちらりと未来を見遣ると、いそいそと荷造りを始めている。素早い。
『今から迎えに行くから。じゃあね』
「え、いや、友里ちゃ……切れた」
友里ちゃんが、喧嘩を口実に未来を家に招きたいのは明らかだった。声の調子が妙にウキウキしていたからだ。
そして未来の方は、友里ちゃんと同じく楽しみ半分、意地が半分、といったところだろうか。
これが普通に友里ちゃんのところへ泊まりに行くんだったら、俺も喜んだだろう。
未来には今まで経験できなかったことをたくさんしてほしいし、未来が嬉しいなら俺も嬉しい。
だけど、喧嘩中のこんな時に――未来からしたからこんな時だからこそなんだろうけど――彼氏を差し置いて友達のところへ行ってしまうという未来に、ますます怒りが募った。
拗ねていた、ともいう。
そして。
「未来は友里ちゃんと楽しくやってればいいよ。俺は別に一人でも平気だから」
俺らしくもない言葉を吐き捨てた結果が、冒頭の未来の発言だ。
「晃太のばか」
「……何でだよ。謝って『行くな』とでも言えばいいの?」
「そんなこと言ってない」
「だったら行ってきたらいいよ。好きなだけ居たらいい」
「……晃太は十日後、謝りに来る。私はそれまで絶対、謝らない」
未来に『未来が見える』ことは、嘘でも何でもない。俺はそれをよく知っている。
だけど――それでも――
「十日なんて、あっという間だろ」
その夜、一人きりのベッドでまるくなりながら、俺は呟いた。
「絶対に謝ってなんかやるもんか」
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