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「書くことないし」

「キリのようなことを言うな。お前はリン王女と話しただろう」

「わざわざ手紙で話すようなことはないよ」

「お前は……」


呆れ顔のフォレガータが、さらに何か言おうとしているのを察し、アガタは「わかったよ」と先手を打って立ち上がった。


「こないだ暇だったから作った押し花のしおりが何枚かあるんだ。確かあのお姫様に似合いそうな花が――」

引き出しから一枚の小さな紙を取り出すと、アガタは小さく笑った。


「あった」


薄桃色の小さな花で作られたしおりは、確かに彼の国の姫が喜びそうなものであった。


「これ、手紙に入れといてよ」


受け取ったフォレガータは、しばらくそのしおりを見つめていたが、キッと顔を上げたと思うと目の前の夫を睨みつけた。


「お前はその無作法をどうにかしろ!」

「書けないものを無理矢理書いたってしかたないじゃん」

「そういう問題ではない!」


しばらくフォレガータの怒声が部屋に響き続け、最後には観念したようなアガタのため息が落ちた。


「はいはい、わかりましたよ」


けだるげな動きで、アガタは机に着く。


「また会ったら話せばいいんだけどなあ」


その呟きに、再び鋭い視線を送ってきた妻を横目に、アガタはペンを手に取った。




遠い国から届いた一通の手紙。

それは、この城で暮らすひとつの家族に、つかの間の穏やかなひとときも運んできたのだった。



「カント、そこ字間違ってる」

「本当だ。かずおさまになってるよ」

「……かずおさま……くくっ!」

「アガタのツボがよくわかんないな」

「笑っていないでさっさと書け。まだ一文字も書いていないじゃないか」

「えと、えと、か、ず、ま、さ、ま……これであってるー???」




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