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「リンちゃんからおてがみー!」
ノグ国の城。その一室で、皇女であるカントは白い紙を握りしめて跳ね回った。
先日この城に滞在した、とある国の王子妃から手紙が届いたのである。
個人的に手紙を貰う、というのはめったにあることではない。カントは大喜びだった。もちろん、自分にだけではなく、両親や兄たちへの手紙でもあったが。
「よかったな、また話したいと書いてある」
「うん!カントもリンちゃんとまたあそびたい!かずまさまはちょっとこわいけどー、でもすき!」
「返事にそう書いたらいい。喜んでくれるだろう」
「おへんじ!かくー!」
幼い皇女に微笑んでいるのは、凛々しいたたずまいの女性――ノグ国の女王、フォレガータ・ノグ・ホウヴィネンである。
「私も今から返事を書こうと思っていたところだ。一緒に書こうか」
「かくー!かあさまといっしょにリンちゃんにおへんじ、かくー!」
「キリ、エムシ、お前たちも来い。三人で一枚だ」
母親の手招きに、二人の皇子・キリとエムシも応じる。
「あんまり書くことないんだけど」
妹とともに『お返事』に取り掛かるエムシを目で追いながら、キリは困ったように呟いた。
「噛まずに名前を発音するコツでも教えてさしあげたらどうだ?」
「そんなの特にないですよ」
しかし、しばらく思案したのち、キリも二人に続いて筆を取った。
その様子をフォレガータはほほえましく眺める。
――が。
「アガタ、お前も返事を書けと言っただろう。何をのんきに寝ているんだ」
眉を潜めて視線を向けた先には、ソファに腰掛け開いた本を顔にのせたまま寝息をたてる一人の青年。
「……えー?だって面倒くさ、」
「書け、と言っている」
身体を起こし、億劫そうに反論した夫――アガタに、フォレガータはぴしゃりと言い放つ。
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