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カズマ殿下はリンさまをさらに引き寄せ、唇を重ねました。
ああ、こんなところをのぞき見してはいけませんわ!と思いながらも扉の隙間から動くことができません。
リンさまが小さく声を漏らしながら肩で息をし始めた頃、やっとカズマ殿下が唇を離しました。
そして、自分が腰掛けていた椅子に、今度はリンさまを座らせると、膝に手を滑らせます。
「カズマ様、待って……!ツバキさんが戻ってきたら……」
「無視すればいい」
「そんなこと、」
「お前が可愛いのが悪い」
「や、あっ……!」
高い背もたれに左手を置き、右手でリンさまに触れるカズマ殿下。
リンさまは両手で口元を押さえながら、首を振り続けています。
「我慢しなくていい」
「……っ、だめ……」
「顔も隠すな」
カズマ殿下はリンさまの手を退けてしまいました。
でも、
「み、見ないでください……!」
リンさまは手をのばすと、カズマ殿下の目元を両手で覆い隠しました。
「こんな明るいとこで、見ないで……それに、だめです、パーティーに……っ」
「だから誘ったのはお前だと」
「でも……!」
ちょうどその時、廊下に人が現れ、私は慌てて扉に背を向けました。
部屋の前で控えているかのように見せなくては。はしたないと思われてしまいますわ。
それでもお二人の声は、耳に届きます。
「おい、手をどけろ」
「だって、どけたらカズマ様………きゃああっ!!!???」
突然リンさまが甲高い悲鳴を上げ、私はびっくりして思わず扉を開いてしまいました。
「リンさま、どうなさっ……あっ!」
私は、あんぐりと口を開けました。
椅子に座っていたのは、ぶかぶかの黒いドレスが今にも肩からずり落ちそうな――幼い女の子。
既視感のあるその姿は、いつかと同じ。
「リンさま、また小さく……?」
先程までの体勢のまま、カズマ殿下は無言で硬直なさっています。
まるで幼女を襲おうとしているかのように見えて少々犯罪的ですわ。
「あ、あ、う、まりかさん、かずま、さま……」
涙目で混乱した様子のリンさまを、黙ったままカズマ殿下が抱き上げました。
「あっ!あの!」
「……あの女、斬る」
「ま、まって!さきにふくを、あの、」
リンさまの訴えは聞かず、殿下は据わった目で部屋を駆け出しました。
私も慌てて後に続きます。
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